被験者6『警察官 松本の場合』5
「おい、松本!
すぐに出る準備をしろ!」
先輩の声で飛び起きた。当直の交代で仮眠をとっていた時の事だ。
「どうしたんですか?」
「市民の暴動だ。役所や国会の周りでAIの機械が設置されている所を明示しろって暴れてる。
しかも、全国的に一斉に蜂起したみたいだ。
とにかく、現場で交通整理とか…何かしに行くぞ。」
「承知しました。」
私は急いで支度を整えた。
「拳銃は持っていくなよ。暴動起こしてる奴らにとられたら大事になるからな。できるだけ警棒とかさすまたとかで対応しよう。」
先輩もどうやら上からの指示というよりその場で判断しているようだった。
全国的に一斉に蜂起したとなると上層部も混乱していて末端の交番にまで指示ができる状態ではないのだろう。
現場につくとマスクやサングラスなどで顔を隠した集団が横一列に並び、それを多層にする事で前のほうで暴れている者達のところまで辿り着けないようにしている。
機動隊も到着しているが、暴れてもいない人達を無理矢理どかすのは大丈夫なのか?となって身動きがとれなくなっている。
そんな中で『AIの独裁を許すな!』『AIが人間の価値を決めるな!』『政治家は自分達の仕事をしっかりやれ!』といった怒号が飛び交っている。
少なくとも怒号を上げている人達に何も犯罪性や悪質性はない。ただ一列に並び主張をしているだけだ。
何も悪くないから時給が下がる要素はない。
憲法に保証される表現の自由や思想の自由に則った行為である。ただ、それも警察が退去を求めるまでの話でもっと言うなら前方の暴れている者がいなかった時のはなしである。今は暴れている人達を捕まえるために警察官が大勢集まり、逮捕するために近寄ろうとしているのを妨害している状態だ。
この状態では既に犯人隠匿や公務執行妨害にあたる可能性がある。強制的に機動隊が突撃すれば怪我人がたくさんでる。かなり計画的かつ参加者を守る仕組みもできている。そして恐らく前方で暴れている人達は時給が0だった人達なのだろう。
時給が割り振られて、それがそのままその人の価値になるなら、0だった人にもう怖いものはないだろう。
どうせ価値がないと判断されたならと自暴自棄になる人がでてもおかしくはない。
壁になっている人達からすれば一生懸命に生きてきたのに低評価だったとなるとやるせない気持ちにもなる。
時給の判断基準がわからず、勝手に与えられた評価のみで人生が決まってしまう。
この制度は本当に人を幸せにできるものなのだろうか?
私には…目の前の光景で見ている人達からは、決してそうは思えないと私は思ってまった。




