被験者6『警察官 松本の場合』4
完全時給生活の制度が始まり半年が過ぎた。
犯罪の発生率はほぼ0%になり、起こっても偶発的な事故や器物損壊程度になっていた。
監視用のブレスレットは、観光客や仕事で訪れる外国人にまで着用が義務化された。このため、不法滞在や外国人犯罪の発生もなくなってきた。
無理矢理ブレスレットを外した外国人が罰金の上に強制帰国になり、更に二度と日本に入国できない措置をとられた事が世界的に話題になった事があったが、犯罪者に対する擁護をするのかという話が出始めると各国は批判をしなくなっていった。
こうなってくると問題になるのは警察の必要性だ。
犯罪が発生しない上にすべての人が監視されているなら治安維持を目的とした警察組織は何も仕事がない事になる。交番勤務の私の仕事も簡単なものになっている。
交番で待機し、道案内や落とし物の受け取りと引き渡しを行うだけで他にする事もない。
道案内もスマホが普及した今になってわざわざ人に尋ねたりもしないのでかなり少ない。
警察官はただ交番で座っているだけなのに給料が貰えるなんて暴言を言われる事もある。
だが、我々も座っているだけでは時給が下がり生きていけないため、治安維持のためにパトロールをしたり身体を鍛えたりして万が一のために行動している。
この生活になって困った事の相談を受ける事もある。
その中で最近になって増えたのが、『AIの審査が厳しすぎる』というものだ。ちょっと手に持っていたゴミを落としてしまっただけでポイ捨て判定されたとか道端に落ちてた石を蹴ってしまって物に傷がついたのが器物損壊だと判定されたなど誰が聞いても悪さを感じないものまで判定されているらしい。
このような相談があったと国に報告しても何もリアクションがない。議員も官僚も国民の生活を良くする政策の策定や実行に真剣になるあまり、国民の声に答える暇がなくなってしまっている。
このAIに判定される社会において、完全に人はAIの支配下になってしまった。直接支配されているわけではないが、自分の時給の判断がAIに委ねられた事でAIに逆らえないと人が思うようになってしまった。
こうして人はAIの支配下になってしまったわけである。
これに不満を持つ者も出始めた。
元から低評価だった者達からすればもうどうとでもなれと自棄を起こしている人も出ている。
そしてその機運の高まりが日に日に増している事に私は恐怖を覚えていた。




