被験者6『警察官 松本の場合』2
『政府は本日より完全時給生活という制度の施行を発表しました。特別なブレスレットを装着し行動が把握される事によってその人が社会にどれだけ貢献しているかで個人に時給が設定される制度です。
一生懸命に働いているのに低賃金だったり、不当に搾取されていたりが横行していた現行の制度を見直し、かんぜんに行動が把握される代わりに正当な評価が得られると考えられております。』
交番のテレビからニュースが流されていた。
大事な発表があるから全てのテレビをつけておくようにと言われていたためにである。
「なんかずっと監視されてるみたいで気分は良くないよな。」
先輩の田中さんが言った。
「でも、監視されてたら犯罪もできなくなりますよ。」
「そうしたら、俺たちの仕事はなんになんだ?」
「別に犯罪者を捕まえるのだけが仕事じゃないじゃないですか?」
「わかんねえだろ?今は無くても機能が追加されて、迷子の人に道を教えたり、落とし物した瞬間に音声でアナウンスしたりしてみろよ。交番の仕事なんてなにもなくなるぞ?」
「でも、ブレスレットは日本人限定みたいですし、観光客とかには需要があるかもしれませんよ?」
「英語勉強しろってか?」
「田中さんが言ったみたいに新機能で通訳もしてくれるかも知れませんよ。」
「おい、二人とも雑談してないでいくぞ。」
「山本さん、どこにいくんですか?」
交番で最年長の山本さんが言ったのに僕が聞き返した。
「自分の時給が低くて怒った人達が制度に対してデモを起こしたらしい。過激化するかはわからないが一般人に被害がでないように見張りに行けと署から連絡が来た。変化に抗う人や制度に文句をつける人がいる限り、私たちの仕事はなくなりそうにないな。」
山本さんは小さくため息をついた。
既得権益、時給の判断基準、自己肯定感と劣等感。
自分が譲れない価値観は人によって違う。
あの男が言っていた通り、この制度によって救われる人がいれば全てを失う人も出てくるだろう。
誰の利益を優先して誰の損失を無視するのか、それは現行の刑法における人権と共通の課題を持つ。
被害が出ていても加害者に配慮されたり、被害が出る可能性が高いのに事件が起きてからしか対応できなかったりする。守るべきは一生懸命生きてる人である被害者側で、利己的な加害者ではない。
なのに、加害者にばかり有利な刑罰や司法判断が多いような気が私はずっとしていた。
犯罪から人を守るべき法律が時に被害者を追い詰める。
そんな現行の法律に対するモヤモヤは今回導入された制度にも通じたなのにかがあると私には思えた。




