被験者6『警察官 松本の場合』
「お気をつけてお帰りください。」
私は交番の前で道案内をして、迷っていた方を見送った。警察官になって8年ほどが経った。
刑事志望の友人達とは違い交番で道案内をしたり落とし物の処理をしているのが自分にはあっている。たまに呼ばれる事件現場の応援とかに行くよりも落ち着いていられるからだ。順風満帆とまでは行かないが気に入った生活だった。親も祖父も警察官で小さな頃から自分も警察官になりたいと思い実現した。昇進試験とかも受けながらのんびりと暮らせれば良いと思っていた。
あの男が現れるまでは。
「突然、すみません。」
いつも通り交番の前で立っていると男性に話しかけられた。道案内かと思い、
「どちらに行かれますか?」
「おや、難しい質問ですね。私に明確な目的地はありませんからね。」
「ああ、すみません。落とし物ですか?」
「いや~、どちらかと言えば拾い物に来た感じです。」
「何か拾われたのですか?」
「いいえ、これから拾います。」
さすがに怪しいと思い身構えると男性は両手を上げて
「いやいや何もしませんよ。ただ、ご協力をお願いしたいと思いましてね。私は政府のある機関に勤める科学者でしてね。公正な意見を頂きたいと思ったんですよ。」
「私のような変哲もない人間の意見が重要だとは思えませんよ?」
「ある意味で特殊な思想を持っている人より信頼できて良いと思いますよ。」
「仕事もありますのでご冗談にはお付き合いできません。」
「それなら大丈夫です。
もう既に貴方にはご協力を頂いてます。」
「どういう意味ですか?」
「実はここは現実じゃないんですよ。
ここは人が働きに応じてその人の時給が決まり、行動の全てを監視されながらも公平、公正に評価される社会を作る政策の実用性や問題点を見つけるためのシュミレーションの世界なんです。
何人かの被験者に実際に体験して頂き、感想を貰ってるんですよ。貴方も既にシュミレーションの中にいるわけです。」
「えっ?」
「まぁ、驚かれるでしょうね。他の方達はシュミレーションが終わってから全てを知る形になるんですが貴方は特別です。」
「私が特別扱いされる理由はなんですか?」
「お仕事柄というべきですかね?
このシュミレーションでは、犯罪行為や人に迷惑をかけると時給の低下や強制賠償により所得が減る仕組みになっています。
人々は自らの価値を落とさないために必死に犯罪や人に迷惑をかけないように勤めるでしょう。
そうなれば警察官の役割とは何か?
誰の判断で迷惑行為や犯罪が裁かれるのか?という問題が起こるわけです。全ては行動監視を行うAIの判断で行われる。全ての人がその判断に従順になるわけもない。
貴方は正規の役職の中でどのように思うのだろうかと思いましてね。別に実際の社会じゃないから現実に戻れば済む話ですから映画やゲーム感覚で思った通りに行動して貰えれば良いですよ。
では、しばしの有給をお楽しみください。」
そう言うと男は光と共に目の前から消えた。まるでゲームの転送シーンのような光景にここがあの男の言うとおり現実ではない事を私に思い知らせた。




