被験者5「死刑囚・鈴本の場合9」
プシューという機械音と共に視界が明るくなる。
周りを見回すと黒服のゴツい男が3人と胡散臭い笑顔を浮かべた男が俺を囲むように立っていた。胡散臭い笑顔の男が
「お疲れさまでした。どうでしたか、死刑囚の鈴本さん?時給を貰うために自分の身体から血液を売る。
別に健康な人なら誰でもできるし、必ず誰かの役に立てるお仕事です。自分の仕事が誰の何の役に立てるかも分からず与えられたタスクをこなすよりもよっぽどやりがいのあるお仕事だと思いませんか?」
「それが平等に与えられるならだろ?こういうのって権力者やその関係者に優先されて結局は貧しい人に届かないんだろ?」
「なるほど、耳に痛い話です。
ですが、実際に血液は不足し輸血が間に合わないがために奪われる命がある。人からしか採れない資源というものがあるというのも変えられない事実です。
ですが、この制度が実現すれば血液は病院に分配されます。救急救命の設備のある病院を優先し、手術数の多い病院、そして救急車の管理を行う消防署にも少ないですが分配されるでしょう。分配の基準を統計学的に判断され患者で判断が左右される事はありません。」
「そんな事をしたら嘘をついて血液をたくさん手に入れようとする病院が増えて、それがステータスになり病院が権力者になるだけなんじゃないか?」
「そうなるかもしれませんね。ただ、そんな事をするなら血液を輸血する側から献血する側に変わるだけですよ。」
「夢物語だろ。」
「鈴本さんは実に思慮深い。現役のゴミみたいな政治家に同じような進言をしても自分がどう利権にからむかしか気にしませんからね~。そもそも穴を開けなければ権力者でも簡単には入り込めないんですよ。
今までそういう事ができてきたのだとするなら、穴だらけの政策を作って自分達の仕事を貶めてきたことになりますからね。」
「あなたが誰なのかは知らないが、あなたが政策の実行に関わり主導しないなら結果は穴だらけの政策で終わるだけだろ。」
「おっと、申し遅れましたね。
私はマッドサイエンティストの困野と申します。
まぁ、覚えてもらう必要はないですよ。偽名ですしね。」
「この機械を作った人って事か?」
「ええ、そうです。
いかがでしたか?こんな制度になれば人は幸せになりそうですか?」
「俺の見た範囲なら幸せかもしれないな。
ゴミみたいな奴は金が貰えなくなり生活できなくなるから真面目に批判されない人生を送ろうと必死になる。
虐待や犯罪もできなくなる。俺みたいな子供も減るかもな。」
「おや、高評価ですね。他には?ダメな所はなかったですか?」
「死刑囚に何を望んでんだあんたは?
そうだな、この制度が定着するのに何年かかる?
違和感なく受け入れられる人は国民の何%だ?
制度を受け入れない者は反逆者で犯罪者か?」
「うふふ、やはりあなたは素晴らしいですね。助手に欲しいくらいです。」
「知るか。俺は死刑囚のまま何だろ。さっさと独房に戻せよ。」
「そうですか。あっ、ちなみに血液の輸血法案は独自の政策として採用されました。なので、健康診断を受けてからお帰りくださいね。」
「何でもいいよ。」
鈴本が連行されていく姿を見て困野は
「生まれた環境、親ガチャ、理解されない天才。
彼の状況のひとつでも違えば、彼は成功者になれたのでしょうか?お金持ちの家に生まれたら、親がまともな判断基準を持った人間なら、その深い思考能力や高い身体能力を見いだし正しい方向に導く指導者がいたら。
タラレバですが、人はそれぞれに才能を持ち多くの人がその才能を伸ばす事なく生を終える。
与えられた環境の中で『必死に生きている』と勘違いしながら。さぁ、次のあなたはどうですか?
生まれながらに持っていた者を維持するために走り回りますか、それとも『与えられたもの』と割りきり新たな一歩を始めますか?おや、被験者も残り少なくなってきましたね。フフ、どんな物語が見えるか楽しみですね。」
困野は一人で楽しそうに笑った。




