被験者1 「フリーター多奈川さんの場合2」
完全時給生活の政策が始まり1ヶ月が過ぎた。
この1ヶ月、私・多奈川は考えるのを諦めていた。
人生が嫌になっていた時に始まったこの制度だったが、それとこれは関係ない。というのも考えていた内容が以前とは別物になったからだ。
以前は現状に対する劣等感や未来への不安であったが、今は何が正しく何が間違いなのかという話になっていた。
そう考えるようになったのも善なる行動をすれば人として評価され時給が上がるが、悪い事や人に迷惑をかけるような事をすると時給が下がる。では、善なる行動とは何か?正しいとは何か?という判断で行動が制御される。
もちろん、評価基準があるらしく『時給アップポイント』というのがある。その逆もあり、2つはまったく別のものとしてそれぞれ加算されていく。給料日の午前0時時点での2つのポイントの量により時給のアップ・ダウンが決定する。
このポイントはスマホ等から確認する事ができるから、例えば善なる行動をしたと思えばポイントを確認して加算があれば同様の行動を心がければいいし、マイナスになっていれば行動の見直しをする等ができるわけだ。
ただ、行動を1つすれば確認するなんて事をしてたら日常が送れなくなるし、確認してる間に誰かに迷惑をかければマイナスとなるからかなり難しい状況にある。
そのため、常に正しい事とは何かを考え迷惑をかけてないかを心配する、そんなサイクルを周り続ける事にストレスを感じずにはいられない。僕の開始時の時給は965円だった。
ニュースで大物政治家と呼ばれていた人の時給が0円だったという衝撃的なものがあった。もちろん、世間から今まで何をしていたんだと責められてはいたが、暴言を吐いたり人を貶すというのは悪なる行動となるとのアナウンスがあり、その政治家が責められる事はなくなったが、政治家は家で首をくくってしまったらしい。時給0円という事はこの世に必要とされていない人間だと突きつけられる事になるから耐えられなかったのだろう。
この制度の難しい所は他人と時給を比べるのが難しい事にある。
例えば仲の良い5人組があったとして、その中でも時給格差が生まれれば元からの仲に亀裂を入れる事だってあるし、自分だけ低かった時を想像すればゾッとする。
そのため、簡単に人に時給の話をするのは難しい。
1ヶ月の間、時給をあげるために町中のごみを拾ったりした。
もちろん、バイトも休まず行ったし思い付く善行と言われることはしてみた。果たして僕の時給はあがったのだろうか?