被験者5「死刑囚・鈴本の場合5」
牢屋の中でいつ死ぬかわからない状況から、罪に対する賠償が終わるまで生きる事になった死刑囚の中にはその途方もない年月に嘆く者もいたが、それこそいつ絞首台に送られるかという恐怖がなくなった事により明るさのようなものが出てきた。
ただ、死刑囚に何か刑務作業が回ってくる訳でもないのでただ話をして1日過ごすだけの生活を送っていた。
『あんたは何をやって死刑になったんだ?』
この話が最近の主流になっていた。
それぞれが自分の身の上話をしてどんな犯罪をして死刑になったかを話していく。本当に何をやってんだと死刑囚として同類の俺ですら思うような人もいれば、家族のために大金が必要で強盗をしないといけなかった者もいた。池田さんは暴力団だったらしい。中学から不良で仲間内で暴れてたらいつの間にか家から追い出されていく宛もなく彷徨った結果、暴力団の人に面倒を見て貰えて生き長らえたそうだ。でも、現実は甘くなかった。
長年、『兄貴』として慕ってた面倒を見てくれた人に最期の最期で裏切られたらしい。
「四十何年って、一緒にいて、それなりに修羅場も共にしてきたけどよ、呆気なかったよ。
兄貴がしてきた事の全部が俺がやった事になってた。
街を歩いてたら、いきなり警官に囲まれてよ~。
身に覚えのない罪状並べられて逮捕だよ。取り調べで色々話を聞くと兄貴が武勇伝だって話してた内容があったりまったく知らない話があったりで、何が何だかわからなかった。俺は違うって何度言っても取り合っても貰えない。疲れきった俺は兄貴に確認して貰えば俺じゃない事を証明してくれるって言ったら衝撃的な事を言われたよ。」
「何ていわれたんですか?」
「お前のいう『兄貴』が暴力団からの足抜けする時にこんな悪い事をしてる奴がいるって教えてきた、だったよ。兄貴は自分の罪を全部、俺に押し付けて逃げやがったんだ。兄貴は嫁がいて子供もいて最近は孫もいた。
孫が可愛いってデレデレしてたのも知ってるよ。
暴力団のままじゃいられない理由もあったろうよ。
でも、俺に全部押し付けるのは違うだろ?
確かに恩があるよ。もし、兄貴から足抜けしたいから俺の罪を背負ってくれって直接頼まれたら快く引き受けたよ。でも、違ったな。兄貴は俺に断られるのが怖かったんだよ。だから、何も言わずに押し付けた。
俺は罪を押し付けられた事より信じて貰えなかった事の方が堪えたね。」
池田さんは寂しそうにそう言った。
「冤罪だって、主張しなかったんですか?」
「暴力団の俺がか?誰が信じるんだよ。警察からすれば未解決事件の犯人らしき男を捕まえられたんだ。
それっぽい証拠をくっつけてすぐに裁判だったよ。
誰も俺のために優秀な弁護士着けてくれるわけでも、国選弁護人が真面目に対応してくれるわけでなくトントン拍子に死刑になったよ。」
「それで良いんですか?」
「まぁ、どうしようもないだろ。」
池田さんは諦めたように吐き捨てた。
「その『兄貴』さんは面会に来たりは?」
「一回来たよ。俺を馬鹿にしに来たのかと思ってたら、涙流してずっと謝り続けてんだよ。怒鳴り散らす気も失せたよ。」
「それでどうしたんですか?」
「足抜けしたならあんたはもう『兄貴』じゃない。十何歳って頃から世話になったけど、もう他人なんだから死刑囚に会いに来るようなまねしない方が良いって言ってやったよ。」
「兄貴さんはなんて?」
「さぁな、俺が限界だったから面会打ち切って出てしまったからわからないよ。」
池田さんは満足そうな顔で言った。




