被験者5「死刑囚・鈴本の場合3」
それは突然だった。刑務官が来て
「鈴本、腕を出せ。これからこのブレスレットをつけて貰う。政府が日本に居住する者に対して新しく始めた制度に必要になる物だ。いくらお前が力が強くても壊せないから無駄な事はするなよ。」
「珍しいな、名前で呼ぶなんて。何かあったのか?」
「完全時給生活、これが政府が導入した制度の名前だ。
このブレスレットがその人の行動を監視し、その人の行いに伴ってその人の価値を時給に換算する。真面目に働いて真面目に生きれば評価されて、悪いことや人に迷惑をかけるような事をすれば人としての価値を失う。」
「そんな恣意的な判断で人の価値を決めるとかアホなのか?」
「すべての判断はAIによって行われる。評価はすべて全自動で行われ人が介入することはない。我々も今この瞬間も監視されているし、どんな行動がアウトなのかもわからない。だから、今まで批判が起こったような事に関しては改善していく事になったわけだ。囚人を番号で呼ぶのは人の尊厳を無視してるとか言った人がいたからな。」
「なるほどあんたらもビビってるわけか。」
「そうなるな。時給に基づく給料が一般人は支給されるが、犯罪者のお前らに支給されるかはわからない。例えば今しっかりと更生して刑務作業を頑張ってても損害賠償ができてなければ給料天引きで弁済される。もし詐欺師が5億円騙しとってた過去があれば、そいつはこの制度下において負債5億円スタートになるわけだ。死刑囚のお前ならもっと負債は大きくなってるかもしれないな。」
「なるほどそんな制度か。俺には全く関係ないじゃないか。
独房で天井を眺めて死刑の日を待ってるだけだ。独房の中じゃ悪い事も良い事のしようもないだろ。」
「いや、関係ある。死刑囚の場合、その負債額が完済されるまで死刑は執行されない。そのため負債額が多い者はずっと返済し続けるため死刑が執行されない。寿命で死ぬまでずっとここにいる可能性の方が高いだろうな。」
「その負債額を俺達が知る事はできるのか?」
「もちろんだ。それを知る事で死が近づいてくる感覚もあるだろうが同時に諦めもつくだろ。」
「そうか……俺の負債額は?」
「6億円と少しだ。お前の今の時給は900円、1日で21,600円、一ヶ月で648,000円。完済しようと思うと77年は必要だな。
時給が上がることもあれば下がることもあるから確定ではないがお前の寿命の方が早そうだな。」
「終身刑になって無駄に生かされるだけの生活になったって訳か?ふざけんなさっさと死刑にしろよ。」
「それは我々の判断ではできない。死ぬ事が先延ばしになってキレたのはお前がはじめてだよ。まぁ、そういうことだから。」
刑務官はそう言って俺にブレスレットをはめていった。
死ねずに天井を眺める日々が77年続くと思うとゾッとした。




