被験者5『死刑囚・鈴本の場合2』
毎日を独房の天井を眺めるだけで変わらない日々を送っていた。
さっさと死刑を執行してくれれば良いのに法務大臣が判を押さないらしい。死刑制度に反対してる奴らとかいるらしいが死刑囚の俺からすれば馬鹿げた話だ。検察官や裁判官が『こいつは死んだ方が世の中のためになる』と思ったやつが死刑囚になるわけだからさっさと殺せばいい。もしそいつが世の中に戻るような事があり死刑制度に反対してる奴らだったりその知人・友人・家族に危害を加えたなら『あの時殺しとけば良かった』となるだろう。
つまり、他人事でただの綺麗事なのだ。
自分が死刑になりたくないなら犯罪をやらなければいい。
死刑になっても自分は無実だと主張してる人もいる。その人は戦い続けなければ行けない理由があるが俺みたいな奴は自分のやった事もしっかりわかってるし認めてもいるからさっさと殺せばいい。いつ死刑になるのかと怯えながら独房にいる奴はその恐怖で発狂してる奴もいる。ずーとブツブツ意味のわからないことを呟く奴、狂ったように笑い続けてる奴、何事にも無反応で食事にすら手をつけない奴。
狂い方は人それぞれだが絶望感だけは共通で伝わってくる。
アダム・スミスとかいう人が経済は神の見えざる手によって動かされてるなんて事を言ったらしい。
犯罪も一緒だ。神の見えざる手によって不幸が作り出されて最悪な環境が生まれ嫉妬と価値観のバグによって人は容易に犯罪に手を染める。誰が悪いって話をすれば犯罪をした人が悪いになるが、そうなれと神に決めつけられた人間はきっといる。そしてそれはまさに俺の事だと思う。暴力が当たり前、人にたかって生きる、正しい事が何かも教わらずに生きてきた俺には常識はない。
今回の死刑も度重なる前科と人を五人殴り殺した上に警官にも怪我をさせた事が原因だ。
たまたま町をうろついてたら暴行を受けてる女性がいたから助けに行った。ここまでは裁判官からも善なる行動と言われたが、助けた後が悪かった。女性に暴行していた奴らをボコボコにしすぎて全員殺してしまったのだ。騒ぎを聞き付けた誰かが呼んだ警察官に俺が女性を襲った側だと勘違いされて責められた事にキレて警官もボコボコにしてしまった。女性が誤解を解いてくれたが、五人を殴り殺した事に加えて誤解した警官もボコボコにした事で俺は捕まり前科を踏まえた上で死刑が求刑された。
こんな糞みたいな世界に未練はなかったから死刑が宣告されても黙って頭を下げただけだった。
俺はきっといつまで経っても他の奴らみたいに狂う事はない。
あいつらは生きる事への執着があるから恐怖を感じてるわけであっていつ死刑になってもいいと思ってる俺には恐怖がない。
この代わり映えのしない天井を眺めながらこの首に縄が巻かれる日を待つことになると思っていた。
あの変てこな制度が始まるまでは。




