被験者4「政治家・麻田の場合5」
「とりあえず保釈致します。
捜査はまだ続きますのでご自宅でおとなしくしておいてください。もし外出や旅行などをされる場合は申請してください。
日常の買い物とかなら申請必要ないですが市や県をまたぐ移動などの遠出は年のために申請してください。
逃亡を疑われると罪が重くなったり、刑務所での勾留に切り替えられる可能性もありますから。」
「わかりました。」
私は2ヶ月ぶりくらいに外の空気を吸った。まさかこんなに長く保釈されないとは思っていなかった。
そもそも、保釈金を家族の誰も払ってくれなかった事が長引いた理由らしい。後援会の会長が何とか妻を説得して払って貰えたらしい。その話を聞いても怒りも涙もなかったのだから、ある意味私は成長したのかもしれない。前まではどんな些細な事にも腹を立てていたというのに怒る気力すらわかない。
逆に諦めにも似た脱力感を感じている。家族のために何かをした記憶もなく、私の不機嫌を発散するためのサンドバッグのように扱いすぎた。だから当然だと思う。
こうして警察署からでても家族の姿はなく、後援会の会長が車を回してくれていた。私は
「ありがとう」とつぶやくと後援会の会長は
「先生が謝られるのなんて始めて聞きましたよ。ご家族にもちゃんと謝罪とお礼を言ってくださいね。」
「ああ、そうするよ。」
私が力なく答えたのにも後援会の会長は笑顔でうなずいた。
謝った所で時すでに遅しだろうし本当に家族が待っているとも思えない。
私の嫌な予感は的中し家には誰もいないし家財のほとんどがなくなっていて私の書斎の机の上には妻の名前の記入された離婚届が置いてあり、妻からの最後のメッセージがあった。
『あなたにはもうついていけません。犯罪者で無価値で人を人とも思わないあなたとは離婚します。記入して1ヶ月以内に提出してください。』
私はとりあえず私の欄に名前と印鑑を押して、後援会の会長に代理提出をお願いした。会長も困っていたが最後には了承してくれた。




