被験者1 「フリーター多奈川さんの場合」
私は多奈川久志、25歳。
周りの友達がみんな大学に進学するから自分も大学に行ったもののやりたいこともなく、ただ単位を取得するために通った大学は莫大な奨学金の返済のみを残して何の意味もない時間となった。
こんな言い方をするのも虚しくなるが、自分が誰で何ができて自分でどこに行けるのかもわからない人間である。
大学に行けばやりたい事が見つかったり、色んな意味で運命の人と出会えたりするものなのだと思っていた。
友達がいなかったわけではないが、就活の段階で上手くいかずどんどん決まっていく友達に劣等感や嫉妬から連絡をとる事ができなくなり一気に疎遠になってしまった。
結局、就活は上手く行かないままに大学を卒業し色んな仕事を掛け持ちするフリーターになった。
私の、いや世間一般の考え方では『フリーター=ニート』のように思っていたが、何もしないで引きこもるニートとは違い、生きていくために働き続けないと行けないのがフリーターだ。
もちろん、全部アルバイトだから時給なんて深夜勤務でもしなと1000円を超えない仕事の方が多い。
税金、自身の健康、各種保険、見えない自分の未来と親からのプレッシャーなどの色々な問題が私を押し潰そうと降ってくる。
絶望して死にたいと思いながら街を歩いていると大型のスクリーンからニュースが流れた。
『政府は本日から完全時給生活という政策を行うことを発表しました。詳細は文書とうで公告されます。
お近くの役所に行き、銀行口座の統合と特殊なブレスレットを受け取る事、そして自身の経歴などの入力を行う必要があります。
嘘の申告をした場合は罰金が課されますのでご注意下さい。
この政策の対象は日本国籍を有する者または日本に正式な手続きを経て居住している外国人で希望する者が対象になるようです。
この制度は社会に貢献していると判断されれば、定職に就いていなくても国から給料を受け取れるという利点がある反面、貢献していない場合や犯罪行為を行ったりした場合は生活が厳しくなる可能性があります。』
生活を監視されてその中で良いことをすればお金が貰えてわるいことをしたら貰えるお金が減っていく。
この制度は社会主義のように国費を分配するけど、努力した分だけ貰える金額が増えるなら資本主義のような一面もある。
私は迷わずに自分の借りてる部屋に戻り銀行の通帳などを握りしめて近くの役所に向かって走り出した。
この制度が私の暗い現在を変えてくれるかもしれないと思ったからだ。