被験者3 「会社員・山野さんの場合11」
ピーという機械音と共に頭につけられていた機械がとれる。
何が起こったのか理解できずに周りを見ると先ほどまで自分もつけていた機械をつけた人が何人か目にはいった。
黒服の人が近づいてきて、手足の拘束を解くと白衣を着たいかにも怪しげな男が近づいてきて
「山野さんお疲れ様でした。
いかがでしたか?自分の行動により自分の価値が決まり評価される社会は。」
「あれはあなたが考えたシナリオという事ですか?」
「アハハ、私は小説家や脚本家ではありませんよ。
私は科学者です、まあマッドですけど。」
「ああいう社会になるかもしれないという実験ですか?」
「やはり山野さんは優秀ですね。その通りです。
人の努力を評価せず結果に重きを置き利益のために他者を踏み台にする、そんな社会で誰が一生懸命に働き幸せを掴もうと踠くというのでしょうか?
搾取される者は理不尽な扱いに歪み、搾取していた者は利益を得る快感に歪み、誰かれ構わずに税金を巻き上げる国の形も歪む。
そんな歪みの中で悲劇は連鎖し続ける。
価値のある行為には正当な報酬を払い、悪い行為には厳罰による対処を行い、国が真っ当な基準により社会を管理する。
そうでなければこんなちっぽけな島国の未来はないでしょう。」
「でも、このシュミレーションは実際には起こり得ないことでしょう?」
「山野さんの場合は、比較的ハッピーエンドでしたからね。
そうなって欲しいと願う気持ちもわかりますよ。
ですが、ここで山野さんにとっては良いニュースです。
このシュミレーションは起こり得ない事は起こりません。
山野さんの色々な情報を確認・解析した上でAIがあなたの行動を踏まえて進行させたものだからです。
あなたの会社での扱いも上司からの評価も昔のチームメイトからの信頼も実際になければあの結果には結びつきませんでした。
当然、奥さんや息子さんからの評価も加味した結果があれであり、あなたが泣いてしまうほど奥さんを愛していたのも紛れもない事実です。
あなたも奥さんも一方的に『こうだ』と決めつけてお互いを確認できなかった事ですれ違っているようですから、しっかりと話し合ってください。」
「なぜ妻の事もいわれるんですか?」
「あなたが行方不明になったら奥さんも困るかと思ってご夫婦でご招待したんですよ。奥さんは先に帰宅されましたけどね。」
「妻は離婚できてハッピーエンドですか?」
「実際にどうなるのかを決めるのは奥さんですが、そうならない可能性も十分にあります。
ちなみにですが、我々はあなたを誘拐してしまった形になりお仕事も無理矢理休んで貰った形なので会社の方には色々な資料と共に今回の件を報告しました。ちょうど山野さんに連絡しようとしていたご友人達にも事情はお伝えしました。
これから山野さんが何かしたいと思われる事があれば金銭的な話になりますが支援もさせて頂きますよ。」
「いまいちあなたが何をおっしゃりたいのかはわかりません。」
「十分です。私はあなたの人生においてただの通り雨です。
気にするほどでもない存在ですから。
さて山野さん、あなたが望む未来は今この瞬間から変えることができます。離婚しないようにするのも会社で働き続けるのも、新しい道を歩むのも。あなたが進みたい道へどうぞ。」
黒服の男達に促されて山野は出口へと連れていかれた。
困野はにやりと笑い、ひとりで
「フフフ。お互いのすれ違い、過去のトラウマ、自分という代えのきかない存在にも関わらず劣等感で自分を押し潰してしまう人の弱さ。お互いを頼る事が少しでもできていたら、自分を信じて歩くことができていたら、あのご夫婦は幸せな家庭になっていたのでしょうか?さてさてお互いに一歩踏み込めないご夫婦の未来はどうなるのかHow do you think?
そして自分の価値を見誤ったあなたはこのシュミレーションを通して何を感じるんでしょうね、先生?」
困野は機械に繋がられた太った男に向かって話しかけた。




