被験者3 「会社員・山野さんの場合7」
妻ともめてしまった次の日、会社に行くと社長室に呼び出された。社長は創業家の方で私よりも少し年上な人だ。
現役の頃は試合で活躍したりすると前社長からお褒めの言葉を直接いただいたり時にはボーナスも出してくれたが、現在の社長はチーム解散後に就任されたので私のような平社員とは接点がなかった。緊張して社長室に入ると
「山野さん、本当に申し訳ありませんでした。」
社長からの突然の謝罪に何の事かわからずにきょとんとしていると社長はそれを汲み取ったのか
「実は制度の変更に伴って人事評価の見直しをしたところ、山野さんの功績を横取りして出世していた人間がたくさんいました。
本来ならあなたが表彰されるような功績や昇格もそう言った人間に行ってしまい、あなたには大変不遇な状況となっておりました。本当に申し訳ありませんでした。」
「えっ?そうなんですか?私にはあまり心当たりがないので、突然言われてもどうしようもありませんので頭を上げてください。」
社長が頭を上げてソファーに座るように促された。
「今回の時給生活という制度の導入に伴い、会社の社長ならびに人事担当者には『会社貢献度』というものが公開されています。
その人の行動が会社のためになっているのか、業績に貢献しているか等を総合判断して100%で判断され、そこからその人の仕事で得られる給料が算出されるわけです。
ですが、会社貢献度が低いにも関わらず出世している人がいる事に気づいた人事課の職員が色々と調べた結果、貢献度が低いのに出世している人間は山野さんの上司だったり同じグループで働いていた事がある人ばかりでした。不審に思ったので現在のグループのリーダーに聞いたところ、山野さんを昔から利用していた人達がいたとの証言を得る事ができました。回りに聞いても年配の社員ほどあなたの優秀さを理解している人が多くいましたので、確実にあなたを利用して出世した人間達がいたと我々は判断しました。
この件を受けまして正当に判断した結果、山野さんが望んでくださるのであれば昇格・昇給を行わせて頂きたいと思います。
もしも当社に対する信頼感がなくなったという事であれば今までに受けとるはずだった給料分も上乗せした状態で多額の退職金をお支払する準備あります。」
「私に辞めろという事ですか?」
「いえ、あくまで山野さんがこの会社に愛想をつかせて辞めたいとおっしゃるならという話です。
あと、山野さんに引き抜きの話も来ています。」
「引き抜きですか?」
「はい、チームの解散と共に他の企業に移られた以前のチームメートの方で出世された方もおられて、チームの監督に山野さんを推薦したいとの事です。長らく現場を離れている事を理由に自分達が言っても断られるから私の方から伝えて欲しいと頼まれました。」
「あっ…………」
私は何も言えなかった、かつてのチームメートは私の事など忘れただろうと思っていたし、直接誘われても社長の言った理由で断っていただろう。
本当に理解して貰っていると嬉しく思うのと本当に自分にできるのかという不安がある。すぐには答えがでなかったので保留にして貰って社長室をあとにした。




