被験者3 「会社員・山野さんの場合5」
佐藤くんの仕事を終わらせてリーダーのところに報告に行くとリーダーは驚いた顔で
「もう終わられたんですか?」
「佐藤くんの引き継ぎがしっかりしてましたし、そこまで難しい事は私に任せないでしょうから。」
「そ、そうですか?ありがとうございます。
じゃあ、佐藤くんに戻すための引き継ぎ報告書を…」
「ああ、それはこちらにできてます。他に何かありますか?」
私が聞くとリーダーは少し頭を抱えてから
「山野さん、もう少し仕事のペースを抑えて頂いた方がいいのではないかと思います。
正直に言うと山野さんの仕事の速度がグループのみんなと比べて段違いに速く正確なので山野さんにお願いする仕事がなくて山野さんが仕事をしてないみたいな雰囲気を若い人達を中心に思ってる節があります。
仕事をゆっくりしてくれなんて上司が言うことでもないですが、山野さんの評価を落とす要因になってしまってます。
おそらくは仕事をしてから練習に行かれていた名残でそうなってるんだと思いますがもう少し落ち着いて貰えたら嬉しいです。
とりあえず、私の仕事の一部をお任せしますのでペース配分を考えながら進めて下さい。
あと、山野さんは自分が優秀な事を自覚して下さいね。」
リーダーはそう言って書類の山を渡してきた。彼の机にはまだたくさんやらなければいけない事のリストがあり、本当に仕事の一部を渡されたのだなと思い、受け取って席に戻った。
今まで自分が仕事が速いと思った事はない。あるいは周りは自分より難しい仕事をしているのだから時間がかかって当たり前だと思っていた。仕事を終らせて何もする事がなくてぼーっとしている事は良くあったからサボっているようにも見えていたのだろう。私の若い頃はなんて言うと年寄りぽくってなんか嫌だが、周りはみんな仕事を速く終らせていた。
確かにその名残はあるだろう。特にチームのみんなは同じような動きをしていたし、そのみんなもチームがなくなったのと同時にほとんどの人が転職してしまい私と同じような動きをする人はいなくなったようだ。
リーダーに貰った書類に目を通しながら、私は実は仕事ができる人間だったのではないかと思えた。
兄達と比べて劣っていた私は誰からも劣っていると思い込んで生きてきた。それがこんなところで仇になるとは思ってもいなかった。




