被験者3 「会社員・山野さんの場合3」
役所に着くと一般受付と会社員受付、自営業受付等と区切られていて人は分散して並んでいる。
列の途中には何個も大型のモニターがあって、制度の説明や手続きの手順が詳しく説明されている。
並び始めてから手続きに移るまでの間にだいたいやらなければいけない事や手続きの方法が理解できた。
手続きの場所に行ってから説明されたのでは時間もかかるし、何より職員さんが大変だ。この方法なら理解できなかった部分だけを質問する形がとれるだろう。
実に合理的で無駄のない感じになっている。
手続きの番が来ると職員の人が
「手続きに関して何かご質問はありますか?」
「いえ、手続きに関しては大丈夫です。
会社から時給に関する話は報告をしなくてもいいと言われたのですがこれは法的根拠が本当にあるんですか?」
「はい。こちらは個人情報保護法に基づいてます。
会社によっては職務規定違反に加えて厳しく処罰をされる所もあるようです。」
「会社はそんな準備をする期間があったんですか?」
「国民の皆様にとっては突然始まった制度ですが、役所や会社の人事課など、あとは弁護士などの法曹界、税理士などにも半年前から通知がされてました。
ただ、実際の施行が始まるまではかん口令がしかれていたので身内にも教えてはいけなかったんです。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「他に何かご質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です。」
「では、こちらのタブレットに必要な情報の入力をお願いします。」
タブレットを受け取り、手順通りに進めていく。
記載例等もしっかりと明示されており、難しい事も何もなかった。パスワード機能はなく顔認証と静脈認証だけになっている。
パスワードは覚えていられない人や忘れてしまう事もあるので顔と静脈、あとは指紋の認証もされるようだ。
静脈認証と同時に指紋認証も行われるので難しくない。
口座を登録すると他の口座から残高がきれいに移動した。
ここで一つ疑問が浮かんだので、
「すみません、口座には夫婦の共有財産もあったのですがその分配とかはされるんですか?」
「共働きの場合は半々くらいで分配されます。奥さまが専業の場合は6対4の割合で分配されます。
夫婦間で分配に問題がある場合は申告により再分配が可能です。
例えば、離婚間近で相手側が有責な場合に一銭も渡したくないという場合は審査期間がありますが渡さないという選択もできます。」
「そうですか。あっ、すみません。どうなのかなと思っただけですので。」
「承知しました。入力頂いた情報から時給証明書を発行いたしますが、何部ご入り用ですか?」
「一応3部お願いします。」
「承知いたしました。」
私は時給証明書を受けとると封筒を3枚渡された。
一枚には会社提出用、もう一枚には本人保持用、そして予備となっている。私は職員の人に会釈をしてその場を離れた。
自分の時給は怖くて確認できないままだった。




