被験者3 「会社員・山野さんの場合2」
一人一人にその人の価値とも言える時給を設定する事で、その人の働きに見合った給料を受け取れるシステムが『完全時給生活』である。今の私に何か価値はあるのだろうか?
家でも職場でも居場所のない私に生きる価値があるとは思えない。だが、登録しないと生活していけない。
会社で働いていれば少しだけでも給料は貰えるだろう。
そんな事を思っていると朝礼で課長が
「本日から政府の政策方針により皆さんには役所に時給生活における諸々の登録して貰わなければならなくなりました。
よって、手の空いてる方から順番に交代で登録に行って頂きます。まあ、今は忙しい時期ではないですから一週間以内には全員が終了できるようにお願いします。」
朝礼が終わると各班のリーダーが手の空いてる人を呼んで向かわせ始めた。うちの班の年下リーダーが私の所に来て
「山野さん、先に行ってきて貰えますか?
うちの班は誰が行っても大丈夫かなと思うんですけど、山野さんなら後の誰の仕事でも引き継げるので先に行っていただけると助かります。」
「承知しました。」
私は答えて立ち上がろうとすると、リーダーが
「あっ、後ですね。僕もさっき課長から言われたんですけど、役所で登録をすると『時給証明書』という書類が二部渡されるそうです。一部は会社提出用でもう一部は本人が所持するための物のようです。必要なら部数を増やす事もできるみたいです。
あと本人の時給に関しては上司や同僚に教えなければいけないという事はありません。それを無理やり聞き出そうとするのは個人情報保護法に基づいて処罰されます。まあ、一種のパワハラだと思ってください。
証明書を受け取ったら人事部に提出して頂いて終わりになります。後に行く人達の中でわからない事がある人もいると思うので実際にやってみてどうだったかなど質問されたら教えて上げてください。もちろん個人情報に関わる事は教えなくて良いので。
よろしいですか?」
「承知しました、それでは向かいますね。」
私は立ち上がり部屋を出ようとする若い社員からひそひそと
『やっぱり一番は山野さんだったな。』『暇そうだもんな』
『万年平社員は楽で良いよな』『でもこれからしんどいんじゃない?仕事できないと時給低いでしょ?』
リーダーは何だかんだと理由をつけてはくれたがこれがあの人の本心でもあるだろう。リーダーはギリギリで私が現役だった頃に入社しているしコーチ時代の事も知っている人だがあのひそひそやってるん世代からすれば私はただの仕事ができないおじさんという事でしかない。
私は重い足どりで役所に向かった。




