被験者3 「会社員・山野さんの場合」
私は山野進、会社員である。
私の家は両親が極度の学歴主義で一流高校とか一流大学しか認めないと公言してしまう逆に頭の悪い人達だった。
近所の人達を見下し馬鹿にする事も多々あり、保育園から高校に行くまで近所に友達ができた事もない。私がどうとかではなく、『あそこの家の子とは関わるな』と言われた子供達が私を避けたからで、これは二人の兄にも共通する。
兄二人は勉強ができて両親からも認められていたが、私は苦手が多すぎていつも怒られてばかりだった。
競技人口が少ないスポーツを高校からしていたおかげで大学は一流と呼ばれる所にスポーツ推薦ではあったが入る事ができた。
どんな行程があろうと学歴が立派に見えれば満足の両親にもともと愛情などなく、大学進学と共に疎遠にした。
勉強はできなかったが、運動はできたため活躍する事もできて、大企業がやっている社会人チームに入る事ができた。
マイナースポーツのため、プロなどが存在しないので企業に就職したりしてチームに入る事になるため肩書きだけ見れば大企業勤務の会社員となる。
激しく動き回るスポーツなので身体の限界も速かった。
引退した後も日本代表経験や指導力を買われてコーチ等もした。
その間に結婚もして子供も産まれたが、妻は私の仕事やスポーツをしている事に関して何も知らない。
大企業勤務の会社員という肩書きにしか興味がなかったのかも知れないが、人が周りにいてくれる事が幸せだと思えていた私はそれでも必死に家族のために働いた。
転機は突然だった。
資金難とチーム業績の上がらなさから突然チームが解散させられたのだ。現役でプレーしていた選手達は違うチームから声がかかり転職していった。ヘッドコーチは年齢が60を超えていたのでそのまま早期退職をしてしまった。
ただの1コーチだった私に他のチームから声がかかる事もなく、ついに私はただの会社員になった。仕事も人並みにはできるが仕事の役職を上げていける程の能力を持ち合わせず、年下上司に馬鹿にされながら仕事をする事になった。
転職も考えたが年齢的に能力的にどうにもならないと考えて行動できなかった。自分が辛い目にあっても家族のために働かなければいけなかったからだ。
そんなに頑張っているのに妻は何時まで経っても昇進しないダメな夫と私を陰で馬鹿にしている。パートに出て自分が家を支えているとも思っているだろう。
私はいつからか昇給しても妻にそれを知らせず毎月渡している額も変えないままに過ごすようになり、理解しようともしない妻の態度に苛立ちを覚えて暴言を吐くようになった。
だが、私のような器の小さい人間はここで離婚したらこの先は孤独に死ぬまで働くだけになると恐怖を感じて離婚もできずにいた。家族のために頑張る事と孤独に怯えながら妻の蔑むような態度に耐える事の狭間で私は自殺したいとすら思うようになった。
そんな時に政府は完全時給生活なる制度の施行を発表したのである。




