被験者2 「主婦・山野さんの場合5」
給料日が過ぎても夫の様子が変わらない。不思議に思っていたが相変わらず帰ってくるのは遅い。
だが、不思議な事に私の給料について聞いてくる事がない。最近は私を馬鹿にするような事も言わなくなったしあまり関わってくる事もなくなった。
色々と思う事はあるが気にする事もないかと思い聞く事もなかった。
普段の家事や生活に一生懸命にとり組む一方で離婚の準備も進めているとあっという間に次の給料日が来た。私の収入事情は順調で今月は合計で60万円くらいあった。
特に生活を変えるわけでもなく一か月を過ごしてみたので普通に生活してみた結果、下がる事もなく大幅に増加するという事もなかった。
つまり、私の生活は『私の普通』を過ごす事で50万円以上の給料が貰える事になる。
さすがに離婚して家事の量が減ればもう少し貢献給が減ると思われるがそれでも生活には支障はないと思われる。私はあらかじめ予約していた弁護士さんの所に行き離婚に向けた手続きに入ってもらった。
家に帰ると夫の靴がすでにあってリビングに行くと夫は正座して座っていた。
「どうしたんですか?」
私が聞くと夫が手紙を取り出した。弁護士事務所の名前の入った紙だった。
「この度は私の至らない考えや行動により不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
できればでいいのですが私に償いの期間、猶予を頂けないでしょうか?」
夫は頭を下げて土下座しながら言った。私はそんな夫を見ても特に感情が動く事もなく
「いまさらそんな事を言われても変わる事はありません。私も子供も裏切ったり傷付けたりしてきたのに許してもらえると考えるのが大きな間違いです。今回の制度が始まった事で私はあなたに養っていただく必要もなくなりましたし、あなたに貶されて落ちていた自己肯定感も取り戻す事が出来ました。
もうあなたと一緒にいる意味が私にはありませんので、弁護士さんの言うとおりに手続きをしてください。私もすぐに荷物をまとめて出ていきますから。」
私が突き放すように言うと夫は顔を上げたが絶望感がすごい。今までに見た事もない顔だったから少し戸惑いも覚えたがここで負けてはいけないと思い何も言わないで自分の部屋に戻った。
付き合ってからも見た事ない顔をしていた。私はあの顔を見たかったわけではないし地獄に落としたいとかそんな事を想っていたわけでもなかった。私はただ自分を取り戻して自分の自由を取り戻したかっただけだったのだ。自分の部屋の扉に鍵をかけてベッドに倒れこんだ。




