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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隠恋慕

作者: 紅月ぐりん

夏のホラー2021参加用に書いたけど

既に応募期間終了してた(´Д`)

じりじりとアルファルトを焦がす夏の太陽は、今年もまた最高気温を更新しようとするかのように危険な暑さを私達に提供している。


今日も35度を越える猛暑に私達の体力はじわじわとすり減らされていくのに、教室にエアコンは常備されず飲み物も禁止されている。


どうかしている。


教育者というものは暑さで生徒が死んでも何とも思わない非人道的な連中しかなれないものなのかもしれない。



けれども今年の夏はそれだけの暑さにも関わらず、背筋が凍るような薄ら寒さをも感じさせている。


「ねえ聞いた? 今度は一組の山田さんが……」

「二組の峯岸君も消えたらしいよ」


校内でまことしやかに囁かれる噂話。連続生徒失踪事件。

学校側は何もないと言い張ってはいるが、日に日にこうして夏期講習へ参加する生徒が減っているのを見るとその言い分を信じるのは難しくなって行く。


うちの学校は県内でも有数のお馬鹿さん達が集まる底辺校で、偏差値40以下の絶望的な頭の生徒達の受け皿となっているお馬鹿さん達にとっては最後の砦となる高校だ。


小学校高学年でも解けるであろう問題にすら頭を悩ませる生徒達の学力を少しでも上げようと夏休み返上で連日夏期講習を開き(ほとん)強制参加させている。


日に日に参加する生徒が減っていくのは単に拷問に等しいこの苦行から逃げ出した奴らがどんどん増えていっただけだろうと最初は誰もがそう考えていた。何しろ頭の悪さに比例して素行の悪さも上がってくような連中ばかりだから。


けれど流石に1クラスの半分も生徒が来なくなってくると変な噂もたってくるというものだ。勉強に全く身が入らないという事もあり教室は噂話でもちきりだ。


『夏期講習に来なくなった生徒は家にも帰って来ていない』

『居なくなった連中は隠れんぼに参加したのだ』

『ただの隠れんぼではない。見つかったら冥界に連れていかれる死神との隠れんぼ』



「隠れんぼって……ガキじゃあるまいし」



と私自身はそういう立ち位置にいるのだが、


「いやいや、分からないよ? うん。ひょっとしたら妖怪や幽霊の仕業かもしれないし、連続殺人犯が暴れ回ってるのかもしれない」


などと馬鹿丸出しの発言をして真剣に考え込んでいるのは親友の神宮寺(じんぐうじ)もとか。コイツは街でも有数の資産家である神宮寺家の跡取りなのだが、本人は全く勉強も運動もやる気がなくこうして底辺校に堂々と通っている大馬鹿女だ。


恐らく卒業後は親のコネで適当な仕事先に就職して結婚までの腰掛けにでもするつもりなのだろう。

遊んで寝て暮らしてもやって行ける将来が約束されていると人間はここまで堕落するといういい例だ。


そんな大馬鹿女に何故か私は好かれているらしく、度々こうやって近寄ってきては濃密なスキンシップをして去っていく。今日も奴はスカートの下に手を入れてくる。


ぴしゃん、という小気味よい音と共にもとかの手を叩き落とすと、私は教室から出て歩き出した。


元から真面目に授業を受ける気などない。暑さが最高潮に達する午後1時以降は教師は冷房の聞いた職員室に避難しそれ以降は自習となる。出欠は最初に取っているので抜けてもバレやしない。


廊下を歩きながらポケットからタバコを(くわ)え火を付けると、外に向かって歩き出した。


校門を出た所で丁度外車の赤いスポーツカーが止まり、中から大学生の男が出てくる。


「やあ、今日も夏期講習お疲れ様」


(さわ)やかな息を吐いて出迎えてくれたのは神宮寺陣(じんぐうじじん)。あの大馬鹿女の兄貴だ。こいつは妹と違って品行方正、スポーツ万能、頭脳明晰と三拍子揃っている。


……あくまで表向きは、だが。


車に乗り込むと陣は私が加えていたタバコを奪いひとしきり煙を吸った後、唇を重ねてきた。


「ん……」


甘い吐息を吐いて足を開き誘い入れる。陣の勢いは止まらず、適当な場所に車を止めると本格的に私の服を脱がしにかかる。



まあ、陣も表面通りのいい子ちゃんじゃないという事だ。そうじゃなきゃ私なんかと付き合いはしない。私もうちの学校の連中の例に漏れず馬鹿だからだ。


私みたいな底辺女が陣やもとかのような上流階級の人間と付き合っていられるのは、ひとえに見栄えの良さに尽きる。アイドル並みの美貌とプロポーション。


陣も女遊びの激しい奴だからいつかは捨てられるだろうが、その時は新しいパトロンを探せばいい。その時までせいぜい楽しませて貰おう、と私は()()()()終えた後に助手席に転がっていた酒を(あお)った。



直後、意識が混濁(こんだく)した。



「…………!?」


気がつくと私は密閉された全面コンクリートの部屋に拘束されていた。動こうと手足を動かすとジャラ……と重たい鎖の感触。


「目が冷めたか、彩奈(あやな)


彩奈というのは私の名前だ。陣はテーブル越しに腕を組んで座っており、こちらを冷ややかな目で見ていた。


「ちょっと、陣! これどういう事よ!? 何で私ベッドに拘束されてるの?」


新手の変態プレイか? せめてそういうのは説明してからやって欲しい。


「もとかの愛情を得る為さ」


普段と変わらぬ爽やかな笑顔で陣はそう言った。


「は?」

「ああ、もちろん、一般的な家族愛だとか兄弟愛だとかそういうのじゃない。れっきとした男女の愛だよ。僕がもとかに求めているのはね」

「それが何で私を拘束する事になるのよ!」

「もとかが君を愛しているからさ」

「…………は?」


私はあんぐりと口を開けて固まった。


「うんうん、気持ちは分かるよ。何であの愛らしいもとかがお前のような尻軽女を好いてるのか本当に理解に苦しむが、どうやらもとかの想いは本物らしくてね」

「それで……私をどうしようっての?」

「死んで貰おうと思って」


あっさりと陣は笑ってそう告げた。


「君がいるともとかは僕に振り向いてくれないみたいだからね。僕が君を好き放題やっているのを見れば諦めるかと思って付き合ってはみたものの、てんで期待外れだったよ」


陣が私にまともな恋愛感情を抱いているなど(つゆ)ほども思ってはいなかったが、流石にそれは予想外だ。


「もとかは昔から熱しやすく冷めやすい性質みたいでね。小学校の頃から男女問わず取っかえ引っ変えしてたんだ。君の事も直ぐに飽きるかと思ってたんだけど、君が一向に(なび)かないもんだから変に興味が沸いちゃったんだろうね」


確かに、覚えはある。もとかの奴は陣と同じく真面目に取り組みさえすれば優秀な成績を残せるやつだったし容姿も優れている。私に引っ付く前はクラスの奴らがよく(たか)っていたものだった。


私自身どうせ一時的なものだろうともとかのアプローチを冷たくあしらい続けてきた。陣との繋ぎ要因としてキープする為に友人の振りをしていたに過ぎない。


「邪魔者は消えてしまえばいい……もとかに(まと)わりつく連中は皆死ね」

「まさか、失踪者はアンタが……!」

「なんの事だか分からないね」


陣はそう言うとおもむろに立ち上がり、懐から刃渡り10センチ程のナイフを取り出した。


「誤解しないでおくれよ…本当は殺人なんてしたくないんだ。けれども君が生きている限りは絶対にもとかは僕に靡かない。仕方の無い事なんだ」

「何を……ぬけぬけと……!」

「君が死ねば僕達はようやく結ばれるんだ……世間には認められない、隠れた恋。言わば、隠恋慕(かくれんぼ)だが僕は成し遂げて見せる」


必死に手足をバタつかせて拘束を外そうと藻掻(もが)くのだがやはり取れる訳もなく、ゆっくりと近寄ってくる。

そしてナイフをわざと見せつけるかのようにゆっくりと振りかぶって振り下ろそうと──


した所で頭から叩き潰された。


ぼきょっ びちゃりっ


全身の骨が砕ける音と肉と血が混じり合い飛び散る音が密室に響いた。



「彩奈……無事だった!?」


血にまみれた巨大なハンマーを放り投げるともとかは私に抱き着いてきた。


「も、もとか……どうしてここに」


私が連れてこられたのは密閉された空間。陣に連れ去られて殺された被害者達も恐らく同じようにここに拉致監禁されていたのだろう。すぐに見つかるような場所にある訳が無い。


「ん? だって彩奈の位置はいつでも把握してるし」

「え?」

「制服」

「は?」

「制服の中にGPS仕込んでるの」


そういってもとかは懐から探知機を取り出して見せた。その様子が、あまりにいつも通りで……いつも私に迫ってくるもとかの様子とあまりに変わらなすぎて、私の身体はぶるぶると震え始めた。


私が震えているのを見て、もとかは優しく私を抱きしめながら(ささや)きかける。


「怖かった? ゴメンね。でも、必要な事なの。彩奈に(まと)わりつく害虫共を駆除するには」

「え…………?」

「あはは、気付いてなかったんだ。失踪者、殺したの私」

「は…………?」

「彩奈は勘違いしてたみたいだけど、皆彩奈目当てで寄って来てたんだよ? 陣兄さんも、彩奈に手を掛けようなんて馬鹿な真似をしなければ生きていられたのに」


先程自らの手で叩き潰した男に同情の表情を見せるもとか。分からない。私にはコイツが理解できない。


「ああ、私が兄さんに怒ってないのがおかしい? 彩奈が兄さんに遊ばれて捨てられたら私に(なび)いてくれるかなって泳がせてたんだよね、実は。

まあ、彩奈を傷付けようとしたから殺したけど」

「な、に言って……」

「私の愛はね、兄さんのような(まが)い物じゃないの。本物の愛はね、肉体関係がなくたって耐えられるし。満たされるものなの」


陶酔(とうすい)しながらそう言うもとかの目は私を見ていなかった。私を通り越して、何か別の物を見ていた。


「大丈夫。私は、もとかと一緒に居られればそれでいいから。寝るのが嫌なら手は出さない。二人で、ずっと一緒にいよう?

一生、密閉されたこの空間で、二人きりで、死ぬまで」

「あ……あ……あああ…………」

「誰にも見つからない、二人だけの場所、二人だけの愛。隠恋慕、だね」



ギィィ、と扉が閉められる音が密閉に響いた。

その後、新たに三人の失踪者が現れたがついにその姿が見つけられる事はなかった。

真実の愛は恐怖を伴うもの

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