ナカさん視点⑤
ケンジの話はそれで終わりだったが、俺はなんとなく釈然としないままだった。
そもそもケンジは何故A視点で話を進めたのだろうか。──というか本当に『Aくん』は存在するのか?
俺はケンジに作為めいたものを感じていたが、更に調べることにした。勝手な推測だが、ケンジは俺がそうすると思っている……そんな気がして。
Aは簡単に割れた。
ケンジの実家のおおまかな住所を辿れば簡単に行き着いて、SNSで連絡を取り会う手筈になった。
「ケンジの話したことは概ね事実だよ。 ただ女がいたっていうのは嘘」
A曰く、あまりに普通に暮らしている男を見たら頭にきて、バーテンの後ろに女がいるフリをして、ビビらせて帰ったらしい。
実際その女が死んだのか、家を出たのかもわからないが、流石に殺してまではいないんじゃないかな……とその時のビビり方で思ったという。
「まあ無理矢理とかはあったのかもね……でも、だとしたら『田舎に帰りたくない』ってのもわかるじゃん。 男の親が隠蔽に動くのも」
「まあ確かにそうだね」
では何故ケンジは話を盛ったのだろうか。
そんな俺の気持ちを察したのか、彼はこんなことを言う。
「ただ『ホラ吹きケンちゃん』も事実だけどね」
「え」
「俺が『ホラ吹きAくん』とか呼ばれたのも、ケンジのあだ名からだし。 小四の頃は別にもうホラなんか吹かなかったけど……多分こっちきたばっかは寂しかったんじゃない?」
話が見えなくて尋ねると、ケンジは元々ワケありで、田舎に預けられていたらしい。
母親の再婚の折に実質的に捨てられた……そう言っていたそうだ。田舎で暮らすのに外聞を気にした祖母の意向で、苗字は母の旧姓……そこの家のモノを名乗っている。
そう聞いて、俺の背中に冷たいものが走った。
PCは共有だ。履歴も消していない。
俺がケンジの足跡を簡単に追えるように、ケンジも俺のことを簡単に知れた筈だ。
「──おかえり」
部屋に戻ると、いつもの様にケンジは机に向かっていた。
Aと会っていた、と言うとこないだのように「だろうね」という返事。
「いつから知ってたんだ?」
「……ついこの間だよ。 『ホラ吹きケンちゃん』の話を信じるならね」
「馬鹿言え」
なにが『馬鹿』なのかもよくわからない間抜けな返しだった。
だが──少なくとも俺の知る限り、ケンジは『ホラ吹き』ではない。
「……年末年始帰るか悩んでたんだけどさ」
一緒に行かないか、誘ってみることにした。
気持ち悪い妹を見に。
そう言うとケンジは少し驚いたあとで「なかなか気持ちが悪くていいね」と笑っていた。
やっぱりこれホラーじゃないなって思いました。
ちょっと違う話になった感。
上手くいかねぇなぁ(やさぐれ)
ヒューマンドラマにするか、ホラーに戻すかでも悩んだんですが……正直自分じゃあまりよくわからないので……
アドバイスを賜り、最終的に純文学に変えました。
コロコロ変わってすみません。もう変えない。