【語り】ケンジ④
Aくんは上手くやってたって思ったんだけど、やっぱり嫌だったんだろうな。
高校は地元だったけど、そっから中学の俺と同じようなことになってたみたい。
さっきナカさんになんで帰らないか聞いたけど。
俺が勤勉なのはさ、地元に帰りたくないから。こっちでそれなりのトコに就職して、戻らなくて済むようにしたいんだ。
──おっと、話が逸れたね。
話を戻すと、互いにそんなだからもう地元なんかどうでもよくって。しかも代議士の息子はすっかり大人しくなってはいたけどさ、なんかバーのオーナーみたいな感じで、のうのうと生きてんだよ。
成人式後で酒も飲んでたから、妙な義憤みたいのが沸いたんだよね。
田舎はスッカリ様変わりしてて、土が盛られてたトコとかは住宅街になってたり、近くにショッピングモールが出来てたりとかで。
日を改めて行けば、誰も俺らのことなんかわかんないんじゃないか……
違う人間のフリして、ヤツのバーで『怖い話』をしてやろうぜ、って計画を立てたんだ。
ホラ、動画とかでよくあるじゃん?
心霊スポットに行くやつ。
アレを装って「この辺で、廃車の中で犯されて殺された女が夜な夜な出るって噂で聞いたんだけど、オーナーさん知ってます?」って感じで。
うん、完全に悪ノリだよ。
酔ってなけりゃ……やらないとは言わないけど……う~ん、少なくとも、もう少し綿密な計画を立てたかな。でもまぁ、酔っ払ったまま行ったわけ。そのバーに。
ちょっと裏通りの個人経営の割烹居酒屋とかの並びで、小さいけど割と小綺麗な店だったよ。シンプルっていうか、スタイリッシュっていうか。
特に酒に詳しい訳でもないし、とりあえずジントニック頼んで。
例の男がバーテンもしてた。子供だった俺らと違って10年でそんな変わるわけもなく、すぐわかった。都合よく客は俺らだけ。話しかけやすいよね?
なのにAくん、なんも喋んないのよ。
Aくんってさ、そもそも陽キャなんだけど。
それでその1杯で帰ったんだ。
実際怖い思いしたのAくんだしね。
会ったら当時の記憶が蘇ったのかな、とか。
でも違ってた。
アレだよ、ナカさんの好きなやつ。
──いたんだってさ、女が。
男のすぐ後ろに。