ナカさん視点④
「そういやナカさんも実家帰らないよね」
またそこでケンジは違う話を挟んだ。
俺としては早く続きを聞きたいのだが、彼ばかり喋らせているのもなんだかな、と思い、小休止的に少し喋る。
ケンジ程驚くべき過去は特になくて悪いな、とか思いつつ。
「俺んち再婚でさ。 母親が物心ついてから死んだのもあって、すぐ来た再婚相手とか無理って思っちゃって……ずっと両親とは仲悪いんだよ」
兄貴とは歳が離れている。
兄貴はわざと親父の実家に近い高校を選んで、入学を期に逃げた。
嫁が若いので、思春期の兄貴はそこを選ばされたのかもしれないが、その辺りはわからない。
俺はまだその時小三とかだったから逃げられなくて、割と辛かった。
化粧の匂いとか、媚びたような笑顔とか、『お母さんは亡くなったお母さんでいいの、ママって呼んで』みたいなチープな台詞とかも気持ち悪くて、子供が出来たと知った時には吐いた。
少し前に兄貴のエロ本で知ったことを、親父とこの女がやっていたのだと思うと、とにかく気持ち悪くて仕方がなかったのだ。
俺も兄貴を追うように、中学でもう親父の実家に逃げた。
「まあよくある話じゃないの? 金くれるだけいいってやつ」
正直なところ、今なにが一番気持ち悪いって……妹が育っていく様を見るのが気持ち悪くて帰っていない。
妹に罪はないが、なんでよりにもよって妹なんだろうと感じる。
育っていく毎に女という性を顕にしていく。
見たことも無い女が増えているのはちょっとした恐怖だ。
「ああなんかわかるような」
「はは。 まあいいよ、そんな話。 ──で?」
ケンジはマイペースにも、ドリンクバーに飲み物を取りに行ってからゆっくり話し始めた。