ナカさん視点③
「……なんでって」
俺が自分の炭酸飲料を一口啜ると、突然話が戻ってきた。
「あの時車で見た女の人、死んでたんじゃないかなって」
俺は口に含んだモノを吹きそうになって咳き込んだ。ケンジはそんな俺を軽く気遣う。
本能的な恐怖。
有名な代議士センセイの息子。
突然の不名誉なあだ名。
実家に戻らないケンジ。
……多少予想はしていたが。
「まあ、俺は足しか見てない訳だけど……後になってネットで色々調べたりとか……あ、信じる? 『ホラ吹きケンちゃん』のホラかもよ」
「馬鹿言え」
なにが『馬鹿』なのかもよくわからない間抜けな返しだった。
少なくとも俺の知る限り、ケンジは『ホラ吹き』ではない。もっとも少年の頃はわからないが。
その場はそのままケンジが冗談混じりに話を変え、俺もそれ以上突っ込めないまま終わった。
後日。
ケンジと寮の近くのファミレスに飯を食いに行った。
なんせルームメイトだ、よくあることではある。だが、俺には目的があった。
あの話をもう一度聞きたかったのだ。
「あれ、どこまで本当なの?」
俺が切り出すと、ケンジはニヤッと笑う。
部屋のPCは共有だから俺が調べてたのなんて当然ケンジはわかっていた。
俺も特に隠す気もなく、むしろわざとPCを使っていた。止められたらやめる気で。
ケンジのいう地域は確かに有名代議士の出身地で、代議士の家はそのあたり広範囲に土地を持つ大地主だった。
その一角に、廃車置き場に近い土地も存在していたようだ。
末の息子だけはガラが悪く、学校をサボってはフラフラしていたそう。見た目だけはイケメンで、女を侍らせているのが常。
泣かされた女性も数多くいたとのことだが、法や倫理のラインを越えていたかはわからなかった。
年齢を考えるとおそらくこの男が犯人。
『かくれんぼ』の時期あたりから行動が大人しくなっており、かなり怪しい。
しかしケンジの答えは予想外のものだった。
「あれね、全部嘘だよ」
「えっ?」
そんな馬鹿な。
合致する事柄から作った、それらしい創作話だったのか?
いや……確かにそんなに簡単に殺人事件に出くわすことなんてないかもしれないが……
困惑する俺をよそに、ケンジは運ばれてきたハンバーグのプレートを美味そうに頬張る。
俺も仕方なく食べるが、味などわからなかった。
「アレはお前の想像からの創作なのか?」
「全部嘘っていうのは本当だよ。 でも創作じゃない」
「どういうことだ?」
「 ……あれはね、俺の話じゃないんだ」