【語り】ケンジ①
俺の実家は〇県の県南の田舎街なんだ。
別に無人駅があるわけでもなけりゃ、見渡す限りの田園が広がってるとか有名な滝があるとかでもないし、海に出るには電車で一時間かかる。
なんつーの?昭和レトロっていうか。
たまにある田園のそばにプレハブ小屋と井戸ポンプがあったり、商店街に女性名のスナックがあったりすんの。
過疎地ってわけでもなくて、これから開発するみたいな田舎だったね。
住宅地開発区域に土の山が盛られてたりとかで、そういうとこは格好の遊び場だった。
そのひとつに空き地っていうか……廃車が無造作に置かれてるところがあってさ。まあ空き地ったって誰かの土地なんだろうけど。
廃車場っていうのもあんまり正しくなくて、『ドラえもん』の空き地に置かれてるような土管とか、古い冷蔵庫とかベッドとかもあったけど、メインが廃車だった感じ。
大人は当然『危ないから行っちゃ駄目』って言うけど、行くよね。面白いし。
秘密基地的なやつ。大好きじゃん、子供。
──で、その日もそこに行って、『かくれんぼしようぜ!』ってなったんだわ。
俺は裏の林に続いてる方の、フォルクスワーゲンの……ミニバス?っつーの?アレ。勿論廃車だよ、タイヤとか無かったし。カスタムされてんのか後ろはフラットになってて、端に座席があって、その手前にカーテンがかかってんの。そこに隠れようと思ったんだ。
ホラ、かくれんぼって潜むばかりだとアッサリ捕まっちゃうじゃん。移動しやすい場所のがいいでしょ?
で、行ったんだけど。
なんかこう、車体が揺れてんだよ。
扉は全部閉まってて……前にそこに行った時には開いてたのにおかしいな~と。
──気になるじゃん?
でも中に変な人がいたらどうしよう、って覗くかどうするか迷ってたら、鬼の子がアホみたいにデカい声で『もういいかい?』って。
そしたら車の揺れが止まって。
扉が開いたんだよね。