ナカさん視点①
「あれ? もう終わったの?」
「ん~、ただの酒盛りになっちゃってさ。 飽きたから戻ってきた。 俺下戸だし」
部屋に戻ると、ルームメイトのケンジが机に向かっていた。
真面目な彼にも休息は必要だろう、とくすねてきたビールを一本渡す。ちょうどキリが良かったのか、よくわからん分厚い本を閉じて、椅子から降りた。
帰郷せず大学の寮に残った人間は数少ない。
寮には規律がある分、生活を共にする皆とは自然と気の置けない仲になっていた。
誰かが『百物語』をしようと言い出して娯楽室に集まったものの……酒が入るとどうでもよくなったのか話が飛びまくって──まあ、今に至る。
怖い話が好きなのであり酒盛りは別に好きではない俺は、そこそこ楽しんだ後で、酒飲みの世話をしなくて済むうちに部屋に戻ったというわけだ。
「いっや~、『百物語』とか無理じゃね? 百人いりゃ別だけど……大体知ってるようなネタばっかでさぁ」
「ナカさん怖い話好きだよね。 オカルトスレとかめちゃくちゃ履歴に残ってるし」
部屋には共有のPCとタブレットが一台ずつある。最初の頃は消してた履歴も、仲良くなると共に面倒になって消さなくなっていた。
「『八尺様』みたいにキャラが濃い派手なのもいいけど、基本、地味な話が好きなんだよね。 リアルっつーか身近じゃん?」
ネット小説も読むが、ホラーは創作よりも掲示板とかの実話っぽいのが好きだ。田舎の因習とかもいい。
そんな話をした流れでフト、そういやケンジはいつも帰郷してないな~などと思う。
もしかしたらよっぽどの田舎なのかと期待して聞いてみたら、そうでもないらしい。
「まあ田舎は田舎だけど、田舎街って感じだよ」と笑う。
「ケンジの田舎にはホラースポットとかなかったん? なんか話してよ」
「ホラースポットねぇ……身近な話が好きなら、俺の怖い体験とか聞く?」
「ナカさんの好みかはわかんないけど」という前置きをした上で、ケンジは缶ビールに口を付けてから話し出した。