第二話 異世界……能力……もしゃもしゃ
稲葉白子は途方に暮れていた。
兎を助けたら兎にされた。
その事実を受け入れれるのには時間が必要だった。
私が兎……
私が兎……
私が兎……
____________。
私が兎かぁ……
ようやく何とか理解し呑み込む。
要した時間で云えば一時間は経過しているだろう。
それだけ奇想天外の出来事なのだ。
小さく溜め息をはく。
当然兎なので言語を話すことは出来ない
だけど、まあ……だっるい事になったなぁ。
草木の影でごろりと寝転がりぼけーとする。
これからどうすれば良いかなんて面倒臭くて考えたくない。
しかし、頼る人間も居らずこんな訳の分からない状態で何もしないでいたら直ぐ死んでしまう。
私は自他共に認める面倒臭がりの社会不適合者だが自殺志願者ではない。ついちょっとした気の違いで兎を助けて死んでしまったが自ら死を選ぶ程勇気もない。何より餓死で死ぬなんて辛すぎる。
つまり、非情に不服ではあるが自ら行動を起こさざるを得ない。
まず状況を整理すると、兎神曰く此処は異世界ということだ。
この異世界の文明レベルは日本と変わらないのか?あるいは江戸や鎌倉時代?はたまたその逆で何百年後の未來に近いかそれによって動物の私の生きづらさも変わってくる筈だ。
はあ、どうせなら誰かに飼われてのんびり余生を過ごしたい。
気を取り直して転生されたときに兎神が言っていた事を振り返る。
ギフト、祝福。
訳の分からない事を言っていたと思う。
正直、これからに対しての祝詞みたいなものかと考えていたが今ならあの意味が分かる。
何故なら、RPGゲームで良く見るステータス画面。
それが私の目の前に浮かんでいるからだ。
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[白子]
[種族]:魔兎(劣種)
[加護]
『兎神之寵愛』_全能力値に成長補整(大)・特殊耐性・超回復(夜間時)・身体能力強化(大)(夜間時)
[能力]
『豊穣之祝福』_一定周囲に[生命]の祝福付与(対象指定可)・成長(対象指定可)・還元(対象指定可)
『夜見之祝福』_並列思考・思考加速・確率操作(満月時)
[特殊耐性]
『物理耐性』
『貫』lv9(最大補整)
『魔法耐性』
『火』lv1
『闇』lv5
『精神』lv9(最大補整)
日本語で記載されたそれは白子にとっては馴染み深いモノではあるが、現実に目の前に現れるとどうしても違和感を覚えざるを得ない。
しかし、この状況から前に進むにはこれくらいしか方法はない。
「はぁ」
色々な感情を口に溜め、息を吐く。
よし、まずはこのステータス画面を読み取りますか。
とりあえず種族はまあ分かる。兎だ。
次に[加護]の『兎神之寵愛』はきっとあの兎が最後に言っていた祝詞で貰えたものだと思われる。
詳細は成長率アップと時間指定付きの能力の強化。
ゲームで言うなら成長率補整を上げる要素は非常に重要になるものだがこの世界ではRPGにおけるレベルも無さそうなので有益かどうだかは分からない。
だが無駄になるものではないだろう。
その次が『能力』だ。
『豊穣之祝福』は一定周囲に[生命]の祝福付与と良く分からない記載がされているが推測するに味方を補助するタイプの能力のようだ。
『夜見之祝福』は並列思考・思考加速・確率操作(満月時)と思考力と瞬発力を強化してくれる能力みたいだ。
余り、戦闘向きの『能力』ではないようだけど、どちらも役にはたちそうで安心だ。
そして最後の[特殊耐性]は恐らく『兎神之寵愛』の恩恵の一つで言葉通りでこの攻撃に対して耐性を持つのだろう。
ゲームでなら割合カットであったりするがこの世界ではどのように作用するのかこれだけでは分からない。
総括していえることは実際に試してみないと何とも言えない。
が正しいだろう。
一見したら強く見えるがこれがこの世界での一般的なステータスの可能性もあるし逆に物凄く強い可能性もある。
願わくば強くあってくれと思いつつ、『能力』を先ずは試してみた。
『夜見之祝福』
____________________。
もしゃもしゃ。
もしゃもしゃもしゃもしゃ。
うまうま……とりあえず2つの能力を使用した結果から言おう。
『夜見之祝福』は頭が非常に疲れる。
しかし、思考加速と並列思考は戦闘においては周りの動きが全てスローに見えるのでかなり強力な能力だ。
けどまあ、これは予想通りの結果といえた。
逆にもう一つの能力はかなり予想外の代物であった。
『豊穣之祝福』_一定周囲に[生命]の祝福付与(対象の選択は可能)・成長・還元(対象の選択は可能)
はっきり言って使うまで効果の意味が分からなかったが、この能力はチートだといえた。
まず、成長の促進が出来た。
目の前にあった木の枝。たまたまこれを対象に指定し、『豊穣之祝福』で成長を促進させると全く間に数百倍のサイズはある大木へと姿を変えた。
この時点で驚愕していたのにこれにさらに生命力を付与すると大木が急激に生い茂り、また更に成長を促すとなんと意思を持つ植物が出来た。
この時の私の感情を一言で表すなら、
「やばっ」であろう。
現実には言語なんて喋られる筈がないので可愛い鳴き声が漏れただけだが、最初、植物が動き出した時は生命の危機を感じていた。
自分の数百倍のサイズの物体が動きだしたのだ当然だろう。
しかも、瞬く間に伸びてきた蔦にがんじがらめに捕まったのだから尚更だ。
しかし、この動く植物が私に害するつもりがないのだと直ぐに分かった。
蔦で捕まえた私を生い茂った葉の天辺に置いたと思ったら動きを止めたからだ。
しかも此処は凄く居心地がいい。
暖かい空間に包まれていてしかもこの動く植物の葉が美味いのだ。
私は自分の置かれた状況をすっかり忘れ目の前の葉を咀嚼していた。
ああ、美味しい。
もしゃもしゃ。
一度食べたら止められない。
病み付きとはこの事だろう。
もしゃもしゃ。
ああ。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ___
もしゃもしゃ。
うま……