四話目
王妃様に、殊の外喜んでもらえた献上品の陶器は王妃様によりロイヤルピンクの名前を貰えた事によって我が領の陶器の名物になる事間違いなしになった。
勿論、王家に献上するピンクとは少し色は替えるし質も落とすけど、王家お墨付きを貰ったことで、彼女の父であるリ-ド伯爵に少しでも恩返し出来たと思う。
一緒に登城したリ-ド伯爵も満足気な顔をしていたし、少し肩の荷が降りた。
王城内で第一王子の側近である彼女の兄のリチャ-ドにも会えたので、王都で流行の、いや彼女、アナベルが気に入りそうな贈り物を探している事を言って何店舗か教えてもらった。
僕は王城帰りにそのまま王都のそのお店に寄って彼女が喜びそうなのを真剣に選んだ。
リ-ド家のお抱え宝石店。
うん、わかっていたけど高い。
でも彼女の名前を出して、彼女に似合うもので予算を言うと何点か選んで持ってきてくれた。
目についたのは、サファイアのピアス。
これなら、あの貝殻型の小物入れにも入る。
商談が終わり、商談室から出てふとみると、ショ-ウィンドウに飾ってあるピアスが目についた。
それは、彼女に買ったピアスと同じサファイアのピアスで、同じような形に見えた。
そしてサイズはそれよりも大きめで。
僕は、立ち止まってそのサファイアのピアスをじっと見た。
ピアスは本来魔除けの意味を持つ。
女性は右耳に。
男性は左耳に。
勿論僕も付けている。
生まれた時から特に何も意識したことがなかったピアス。
自分の左耳のあるピアスを触る。
カチリとした硬質の感触。
その感触を確かめながらサファイアのピアスをじっと見る。
その時、一瞬浮かんだ考えに、そう、自分で自分の考えに、戸惑う。
彼女とお揃いのピアスをする。
その考えが頭から離れない。
彼女は自分のものだ、と主張するようで恥ずかしくもなる。
だけど、その言葉の何と甘美な事か。
逆らうことが出来ない誘惑のようだった。
僕は購入の意思を示し、そしてその場で左耳のピアスをサファイアに交換した。
彼女の瞳の色のピアスだ、と思うと、少し気恥ずかしい。
だけど。
これで、少しは彼女も僕を意識してくれたら。
そして…感じる後ろめたさは、もしかしたら、僕の独占欲による罪悪感なのだろうか。
家に帰ってから、貝殻型の入れ物にお揃いのサファイアのピアスを入れた。
濃いピンクの入れ物に収まる小さなブル-のサファイアのピアス。
色のコントラストがとても綺麗だった。
喜んでくれるだろうか。
今日みたいに身につけてくれるだろうか。
僕は突然不安になる。
もし、渡して彼女に少しでも嫌悪の表情を見てしまったら。
…お揃い、なんて彼女が嫌がらないだろうか。
嫉妬深い男だと思われないだろうか。
心の狭い男だと思われないだろうか。
いや、でも僕は婚約者なのだから、これくらい図々しくても大丈夫か…な…?
大丈夫だといいけど。
僕は自分を安心させるように何度も自分に大丈夫と言い聞かせながら横になった。
目を閉じても、中々寝付けない。
何度も何度も寝返りを打つ。
窯を開ける前日に似た、不安なような、楽しみなような、何とも言えない気分だった。