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光の皇女と闇の魔姫  作者: ポテチ
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第4話 混乱の気配

 木々の間を縫って、温かい風が吹き抜けていく。


 12才で加護を授かってはや3年。カイルはほぼ変わらぬ日々を過ごしていた。強いて変化を上げるならば、知識と武術が身についたことと、加護の影響で獲物を見つけやすくなったので、狩りがはかどり、最近では村一番の狩人と言われている事。後、あれからも5回銀王狼と遭遇して討伐しており、誰も知らない秘密の蓄えが出来たことくらいだ。


 こうして書くとかなりの変化だが、3年かけての出来事なので、カイルにそこまで変わったという実感は無い。

 因みに15才は半島の常識だと成人の歳であり、そろそろ浮いた話の一つでも無いのかと狩人の頭領には心配されている。


 今日もカイルはいつもの如く狩りを行い。十分な成果を出して帰路についていた。しかし…


「今日は厄日かな?何事もなく家に帰りたかったのに」


カイルの目には鈍い輝きが写っている。鉄製の鎧。国の兵士の物だ。1人や2人ではない、50人近くいる。


「国軍は兵士にも指揮官の貴族にもろくな奴が居ないらしいし、見つかる前に距離を取った方が良いな。でも下手に動くと見つかるかも?」


  兵士が人目の無い所で民から金品を奪ったり、殺したりするのは、この国ではよく有る事だ。

まあ、それでも往来で堂々と平民を恫喝し、金や女を奪う貴族より、幾分かマシだが。


「この木なら丁度良いかな?」


  カイルは近くにあった巨木に登る。

 青々と生い茂る木の葉の中に身を潜めれば近づいても分からない。兵士達が通り過ぎるのを待つには良い場所だった。


「(さてと、なるべく早く居なくなってくれると良いけど)」


兵士達を観察するカイルに彼らの話し声が聞こえてくる。


「隊長。山賊共の隠れ家と思われる場所にはまだ時間がかかります。一度休憩を取ってはどうでしょう?」


「いや、このまま速やかに行軍する。私達が休んでいる間に連中が村を襲わないとは限らない。民の安寧を守るのが我々の仕事だ」


  集団の先頭を歩く少女は表情を険しくして答える。


「(綺麗な娘だなぁ)」


  木の上から様子を伺っていたカイルはその少女に見惚れていた。3年前に出会ったゼナを除けば、これまでのカイルの人生であの様な綺麗な娘を見たことが無かった。


「(それにしても、今の話し本当かな?山賊を討伐するなんて危険な仕事を貴族や兵士がするとは思えないけど?)」


 貴族や兵士は民の前では威張り散らすが、賊相手には腰が引けるものだ。


「(相手が少数なのかな?)」


  約50人の人数がいるならば、相手が10名程であれば、圧倒出来る。その様な場合は名誉を得る為に討伐に向かう貴族や兵士もいる。


「(コジモ達の隠れ家とは反対の方向だから、コジモ達は心配ないけど)」


 この3年間、コジモに学問や武芸を教わっていてカイルも解ったが、コジモ達は俗に言う義賊だ。貴族や悪徳商人は襲うが、平民には手を出さない。

 貴族にしてみれば、普通の賊よりも憎い相手なので、隠れ家がバレれば討伐に来るだろうが、コジモ達は30名は居るし、加護持ちが2人も居る。

 貴族は加護持ちの事を知っているはずだから、コジモ達を討伐するには50人はあまりにも少ない。恐らく別の賊だろう。


「(山賊の話は少し気になるけど、今は何も出来ないし、とにかく様子見かなぁ)」


  山に山賊が居ること事体は珍しく無いがこれが村の近くなら大変だ。

  村長を始めとした村人達に警戒を呼び掛ける必要があった。


  カイルの視線の先で、少女と兵士の会話が続く。


「お言葉ですが、ここまでも強行軍でした。更に山道は平地よりも体力を奪います。少しは休憩を取らなくては、奴等のアジトへたどり着いた時に満足に戦え無くなります」


「しかし、奴等の狡猾さは貴官も知っているだろう。時間を掛けては奴等に我々が接近していることを悟られる恐れがある。ノロノロしていては奴等に対策の時間を与えるだけだ」


「疲労した状態では満足に戦えません。奴等が狡猾だからこそ万全の状態で臨むべきです。ましてや、奴等の人数はこちらの倍ですぞ」


  少女は苦虫を噛み潰した様な表情をした。


「貴官の考えは分かった。しかし休憩はしない。このまま一気に敵の隠れ家を強襲する」


 少女の言葉と共に行軍は再開された。


  山の奥深くへ進む一団を樹木の上からカイルは見送った。

 彼らの姿が見えなくなった事を確認し、カイルは木から降りた。


「(とりあえず、山賊の話しを村の皆に伝えないと)」


 カイルは木から降りると、慎重に辺りを窺いながら、村へと向かって歩き出した。




「結構時間がかかったな~」


 カイルは独り言ちた。太陽を見ると時刻は既に昼を過ぎていると分かる。


「此処まで来れば大丈夫かな?」


 村はほんの近くである。カイルは気を抜いて歩いていた。それがいけなかった。


 ガサッと音を立てながら、茂から如何にも山賊と言った風貌の3人の男が現れた。

 コジモの一味ではない。


「なんだ?猟師のガキか?獲物を置いてきな!」


  人相の悪い顔に侮る様な笑みを浮かべてカイルに向かってボロボロの剣を向ける山賊。


「(仕方ない。殺るか)」


 相手が殺しに来ているなら此方も容赦するなと言うのはコジモに教えて貰った生き残る鉄則だ。


「あ!待てガキ」


  カイルは身を翻し、山賊達から逃げた。


「待ちやがれ。待たねぇと、殺すぞ」


  質の悪い片刃の剣を振り回しながら、山賊達はカイルを追いかけて来る。


  一見するとカイルは命からがら逃げいるだけに見えるが、カイルはただ逃げている訳では無い。


「(あれが良いかな?)」


  カイルは見つけた太い木の枝に飛び乗り、山賊達の方を振り返ると、弓矢を引き絞り、山賊達へ放った。


「ぎゃぁぁぁ!!」


  放った矢は真ん中に居た山賊の眉間を貫き、山賊は汚い悲鳴を上げて息絶えた。


「先ずは1人」


  カイルは落ち着いて呟いた。


「彼奴、矢を!」


「許せねえ。ブッ殺せ!!」


  残りの2人もカイルの下に向かって来るが、カイルに焦りは無い。


  相手は飛び道具を持たず、鎧も着けていない。しかも徒歩。走っているが、大した速度ではない。 

 一方カイルは弓矢を持ち、高所に居る。的当ての様なものだ。


「よっと」


「ぎゃぁ!!」


「グベェ!!」


 気の抜けた掛け声をだしていっぺんに2本の矢を放つカイル。

 相当な神業だが、カイルは気づいていない。コジモと戦った時に出来てから得意技となっている。

 放たれた矢は2人いた山賊の左目と喉を正確に貫いていた。


「こんな所にまで山賊が来ているなんて。思ってたより深刻かな?村長に伝えないと」


  カイルは村へ向かって走った。


ー○●○ー


  一方その頃、山中では兵士と山賊の戦闘が起こっていた。


「グアァァァ!」


「ブッ殺せ!!」


「ぎゃぁ!」


「指揮官の女は生けどりにしろ。あれは上玉だぁ」


「おのれ、此処までか」


  山の中に山賊の雄叫びと兵士の断末魔が、響き渡る。


「クラウディア隊長お逃げ下さい」


「な、私は栄えある王国騎士だぞ。逃げるなど出来るか!」


 部下の言葉にクラウディアは大声を出して否定する。


「賊共は貴方を捕らえようとするでしょう。捕らえられればどの様な目にあうかお分かりのはずです」


 相手は敵国の軍隊ではなく賊だ。捕虜の概念など無い。


「しかし…」


  尚も反対しようとしたクラウディアの下にもう1人兵士が近づいて来る。


 その兵士は、全身に切り傷があり、肩には、矢が刺さっていた。


「隊長。もう保ちません。お逃げ下さい」


「此度の戦闘で、奴等の正確な数と戦術が判りました。兵を揃えて挑めば次は勝てます。この情報を持ち帰ることが重要です」


 クラウディアは苦虫を噛み潰した様な顔をした。

  彼女が連れて来た50名以外に、民の為に山賊に立ち向かう指揮官や兵士は王国に居ない。そんな事は彼らも判っている。


「分かった。私は一度撤退し、必ず貴官らの仇を討ちに戻って来る。私が撤退した後は貴官らも撤退しろ。1人でも多く生き残れ」


「はっ!」


 兵士達の返事を受けて、クラウディアは走り出した。苦渋の決断だった。しかし、あの場でこれ以上ごねても、彼らの気持ちを無にするだけであった。


「1人でも多く生き伸びてくれ」


悔し涙を流しながら、クラウディアは走った。 


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