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光の皇女と闇の魔姫  作者: ポテチ
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第2話  盗賊・コジモ

「さすがに2頭分は入らないか」


  2頭目の毛皮を剥ぎ取ったカイルは何とか荷物袋に入れようと頑張っていたが、ついに断念。2頭目の毛皮は丸めて小脇に抱えた。


「今日はもう帰るか?」


 時間はまだ昼にもなっていないが、銀王狼の毛皮2頭分は大荷物だ。これを抱えて狩りは出来ない。

  牙と爪も忘れず収集して、カイルは帰路についた。


 周囲を警戒しながら、森の中を歩いていると、20人程の集団を見つける。


「(人?狩人じゃなさそうだけど?)」


 カイルは音もなく樹に登り、彼等の様子を窺う。


「(全員男性。薄汚れた皮鎧と剣や斧などの武器。明らかだよな)」


 盗賊か傭兵であろう。まあ、盗賊も傭兵もカイル達の様な寒村の平民からすれば大差ない。


「(村に行くつもりかな?)」


 盗賊たちの動きを探っていると、その中の1人が立ち止まり、此方を見る。


「(え!?目が合った!ヤバイ!)」


 カイルは咄嗟に弓に矢をつがえた。


 一方で、盗賊たちも自分たちのお頭がいきなり立ち止まった事で戸惑っていた。


「どうしやした?お頭」


「何か気になることでも?」


 盗賊たちが顔色を窺うように男に声を掛ける。


「あちら」


「へ?」


 そんな手下の態度は気にした様子はなく。男はある方向を指差す。


「あちらから人の気配がする」


「え!?あっちですかい?」


 手下の山賊は目を凝らすが、人影は見えない。ただ森が広がっているだけである。


「お頭、俺達には何も見えませんぜ?」


「……」


 首を傾げる手下を気にした様子もなく、男はカイルが登っている木の方へ近づいてくる。


「(え!此方に来る!)」


 危険を感じたカイルは、男の顔の右側を通過するように矢を放つ。当てる気はない。驚かせる為の一矢だ。


「ふんっ」


「なっ!!」


 男は腰に下げてあった剣を引き抜くと、飛来する矢を切り落とした。並の腕前の者には不可能な芸当であり、これだけで男が唯のゴロツキでないと分かる。


「なっ!矢!」


 一方、手下の方はいきなり飛来した矢に驚き、大口を開ける。


「コソコソと此方を窺っている者が居るようだ」


「なっ!」


 他の19人も険しい表情になり、武器を構えて、カイルの居る木に向かって近づいてくる。


「(ヤバイ!何とかしないと!弓は!3人か)」


 カイルの元に向かってくる男たちの内大半は剣や斧等を構えており、弓も持っている者は3名しか居ない。


 飛び道具が少ないという事にカイルは幾分冷静になる。彼等とカイルが登っている木の間は未だにかなりの距離がある。

 弓さえなんとかすれば一方的に狙撃できるのだ。


「(取り敢えず、先ずは弓だ!)」


 カイルは男たちが持つ弓の弦に狙いを定めて、立て続けに3本の矢を射る。


「うおぉ!」


「ぐわぁ!」


「なっ!嘘だろ!」


 飛来した3本の矢は3人が持つ弓の弦を正確に捉えており、その弦はたちまち切られてしまう。


 弓を持つ3人の内1人は弦を切った矢が肩に命中し、悲鳴を上げて倒れ込む。


「お頭、こりゃぁ拙いですぜ」


 まだ盗賊たちは矢を射た者の姿が見えていないし、何処から矢が飛んできているのかも、大まかな方向しか分からない。にも関わらず、飛来した矢は正確に彼等が持つ弓の弦を切った。それはすなわち、山賊たちを狙う狙撃手はこのまま一方的に彼等の急所に矢を叩き込むことが出来る事を意味する。


「一旦逃げましょう。化物みたいな狙撃手だ。距離を取られた今の状態じゃなぶり殺しにされる」


 手下の中で唯一思慮深い男の諫言を聴き、お頭は眉をひそめる。


「そうだな。お前たちは矢が飛んでこない場所まで下がっていろ」


「え!?お頭!」


 お頭は剣を持ったまま、矢が飛んできた方向に向かって走り始める。


「(向かってきた!)」


 そんなお頭の行動に、狙撃しているカイルが慌てる。


 お頭はかなりの速度で走っており、放置すれば数十秒で此処までやって来るだろう。


「(拙い!止めないと)」


 右足を狙って矢を放つが、剣の腹で弾かれてしまう。


「なっ!」


「精度が良すぎるのも困りものだな。次に何処を狙われるか予測できれば、寸部疑わずそこに矢が来るのだから防ぐのは楽だ」


 お頭は獰猛に笑いながら駆ける。


「クソッ!先ずは剣を!」


 走らせないよりも先に武器を使えないようにさせようと考えたカイルは今度は右腕に狙いを付ける。


「ふんっ!」


「なっ!!」


 カイルの放った矢は正確にお頭の右手首に向かって進むが、タイミング良く、手首をねじったお頭の剣にぶつかり、軌道がそれて、地面に落ちる。


「足が駄目なら腕、予想通りだな」


 お頭はカイルが人殺しに慣れていないと見抜き、頭や心臓等の即死する急所ではなく、腕や足など、怪我をすれば戦えなくなる場所を守っていた。


 それからも何度かカイルは矢を放つが全てお頭の剣に弾かれてしまう。


「見つけたぞ!小僧!」


 遂にカイルとお頭の距離が50m程まで縮まり、お頭が獰猛な顔でカイルを睨みつける。


「(どうすれば、こうなったら!)」


 もう後がないと感じたカイルはイチかバチかの賭けに出る。3本の矢を同時につがえたのだ。


「何だと!」


 この行動にお頭も驚き、一瞬足が鈍る。そんな事に構わず、カイルは矢を放つ。


「ちぃ!ぐぅ!」


 一本目の矢はカイルが狙った通り、お頭の右肩に迫り、途中で彼の剣によって弾かれる。

 狙いよりも上に逸れてしまった2本目はお頭の顔に向かったが、これはお頭もなんとか首をひねって躱し、右頬に薄いかすり傷を作るだけで終わった。

 しかし、下の逸れた3本目には彼も注意を払えず、お頭の右の太ももに深々と突き刺さった。


「今だ!」


 太ももの痛みにより一瞬顔を顰めてカイルから注意を逸してしまうお頭。そのスキをカイルは見逃さない。素早く矢をつがえて、放ち。今度はお頭の右腕に矢が突き刺さる。


「ぐわぁ!」


 思わず剣を取り落としてしまうお頭。


「(いける!)」


 武器を失ったお頭にカイルは速射で2本の矢を放ち、左肩と左の太ももを射抜く。


「がぁぁ!!」


 激痛に悲鳴を上げながらお頭は倒れ込む。


「まいった!降参だ」


 それだけ言うとお頭は体に刺さった矢を抜き、なんとか近くの木まで這っていって寄りかかる。


「儲けたな小僧。俺の首には金貨1000枚の懸賞金が掛ってる。王都の国軍詰め所に持っていけば一生遊んで暮らせるぜ。まあ払われればな」


 お頭は皮肉った笑みを浮かべる。一方でカイルは、今聴いた内容に戸惑いを覚えていた。


「(金貨1000枚の懸賞金?そんな金額が掛かっている盗賊は!)」


 カイルの知る限り、そんな盗賊は国内に1人しか居ない。


「まさかアンタ、貴族殺しのコジモ!」


「おうよ!まさかこの俺がこんな片田舎で狩人のガキに討ち取られるとは」


 コジモは自重めいた言葉を呟く。


 貴族殺しのコジモは今、コルド王国の王政府が血眼になって探している盗賊だ。さる伯爵邸に侵入し、伯爵一家を惨殺して屋敷の財産を全て奪って逃げた凶悪犯。コルド王国で最も著名な盗賊だ。


「なあ、小僧」


「え?」


 カイルが驚いていると、コジモは再び声を掛けてくる。


「俺はまだ、死ねねんだ。俺を見逃してくれねえか?礼はする。この通りだ」


 コジモは傷口の痛みに顔を顰めながらも深く頭を下げてくる。


「俺に加護を与えている妖精『スプリガン・ケルケイン』の名に誓う。小僧に加護を与えてる妖精の名にも誓う。だから頼む。見逃してくれ」


「え?」


 コジモの言葉にカイルは首を傾げる。大陸にある宗教は大きく分けて3つだ。3つの中にも細かく宗派があるし、一部の地方だけで信仰されているマイナー宗教もあるが、メジャーな物は3つ。

 唯一神を崇める神聖教と、多神教の十二神信仰、そして、精霊王を崇める精霊信仰である。


 中央半島の国々はもっぱら精霊信仰であり、コルド王国もそうだ。だから、「精霊王に誓う」と言う約束の言葉はよく聞くし、「神に誓う」でも、ココら辺では珍しく神聖教か十二神信仰なのであろうと納得できる。しかし、自身に加護を与える妖精の名に誓うと言う文句は聴いたことがない。


「えっと…」


「ん?」


 カイルの不思議そうな表情に気づいたコジモは微妙な顔でカイルに尋ねる。


「小僧、もしかして加護について知らないのか?」


「加護?」


 加護と言われてカイルの脳裏に先ほど出会った漆黒の少女の姿が浮かぶ。


『 あなたに加護をあげるから、助けが欲しかったら私に願って』


 そう。あの少女は確かにそう言った。


「加護って何なんですか?」


 コジモは恐らく加護について知っている。そう感じてカイルは問いかける。


「加護ってのは…」


「あ、ちょっと!」


 話そうとするコジモの顔色がどんどん悪くなってきているのに気づき、カイルは木から降りると、コジモの話を途中で遮り、持っていた布切れを千切った足跡の包帯で止血する。


「すまねぇな」


「いえ、元々俺が射った怪我ですから」


 カイルの言葉にコジモは苦笑して話を続ける。


「加護ってのは精霊や英霊、妖精なんかが、気に入った人間に与えてくれる力のことだ」


「精霊は解りますけど、英霊と妖精って?」


「精霊の成り損ないが妖精。英霊はかつて居た英雄や偉人が死後に精霊化した者の事を言う」


 コジモはカイルの顔を眺めて不思議そうに尋ねる。


「お前も加護持ちなのに、知らなかったのか?」


「知りませんでした」


 正直に答えるとコジモは余計に首をひねる。


「妖精に合った事は無いのか?加護をくれる時に目の前に顕現するはずだ。名前を教えて貰って加護が使えるようになる」


「名前!」


『私の名前はゼルリアーナ。ゼルリアーナ・ダークネス・ウァルヴ・エレメントロード。長いからゼナで良いよ』


「確か、『ゼナ』」


「なっ!」


「え!」


 カイルがその名を呟いた瞬間、カイルの影から何本もの漆黒の刃が顔を出す。ただの刃ではない。一本一本が蛇のように蠢いていた。

 蠢く影の刃が当たれば太い樹木が簡単に切断される。

 コジモが落とした剣も影に当たった瞬間バッサリと切れた。


「何じゃこりゃ!」


 その光景を見て、コジモは絶句する。


「おい小僧。お前に加護を与えた奴は少なくとも妖精じゃない。こんな力の規模、妖精の加護じゃ無理だ。これは少なくとも大精霊クラスだ」


 コジモは引きつった顔で答えた。 


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