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10. 勘違い


 「ハルカさんは、正に絶体絶命だったピンチから私を救ってくれたんです。蒼い炎の魔法で! 火事かっていうくらい草を燃やして、それはそれはもぉー凄かったんですからね~!」


 火事って……。まぁその場面しか見てないからそりゃそうなんだけどさ。

 語彙力が乏しいせいであんまり凄さが伝わってない感じがするけど……。


 それでも、モモは目を輝かせてゴードンに熱弁している。

 ゴードンも彼女の“七海自慢”に耳を傾ける。



 「やっぱり()()なんですよ! ご自分でも仰られてましたし! ハルカさんならラグランの騎士団くらい、いや、あのキンケッチだって敵じゃありません!」



 「おお、ナナミくんの魔法の才能はそんなに素晴らしいものなのか それなら、この村の劣勢をひっくり返せるかもしれないな」



 トントン拍子でモモの推薦が通っていく。



 「ですです! そうすればママ……いえ、町のみんなだって村を見下すことも無くなるはずです! 彼なら出来ますよ! ね!」



 モモが当の本人である七海に熱い視線を移すと、左肩に、ポン、と手を置いた。


 そして、

 


 「ウム、そうだな。そんなにモモが言うならここは一つ、村長としてお願いしようかな」



 語気を強めてそう言うと、ゴードンが七海の右肩をドン、と叩いた。

 

 お分かりの通り、今七海の両肩にはモモとゴードンの手と、大きな期待が乗っている。



 ……いやいや無理。

 モモさんはあんなに僕を評価してくれていらっしゃいますけど、実際使えるのは手持ち花火くらいの火力の低級魔法だから。

 戦闘だって慣れてないし、毎日鍛えてそうな騎士様相手なんて絶対無理だから。

 それならス〇リー〇ファ〇ターのキャラばりの筋肉してるゴードンの方が見込みあるから。

 食糧根こそぎ奪われるどころか、おまけで僕までミンチにされてハンバーグの刑だから。




 ――――なんて弱音を吐いて拒否するのが普通の人。


 自惚れ(七海)は違う。常人には理解出来ない、“天才”なのだから。




 「分かりました。その依頼、お受けしましょう。僕に任せてください」




 彼は曇りのない爽やかな表情で、きっぱりと言い切った。



 ――僕が異世界転生のこんな序盤に置かれたイベントでコケる訳がない。二人の期待がその証拠だ。


 まだ魔法が馴染んでいない感覚はあるが、それも時が解決してくれる。


 それに、騎士団を圧殺するパーティーを組もうと声を上げれば、周囲からの信頼の厚い僕の元には沢山の手練れが集まってくるはずだ――。



 空虚な自信が、七海の選択を後押しする。






 ――『ねーねー七海くん、ここ教えてくれない?』



 ――『あ! 俺も頼むわ!』

 



 そう、()()()()()僕には、




 ――『七海くん、来週の土曜日、空いてない? その……、もし良かったら――』



 ――『ちょっと優子ー、抜け駆けはなしだってばー。ねね、七海くん、私と――』




 ()()()()()()()()のだから。




 「……――みくん、ナナミくん。大丈夫かね 今後の方針なんだが……。」



 そんなゴードンの太い声で、思量に耽っていた七海は戻された。

 モモもゴードンの怪我の手当てが終わり、彼の隣で正座をしている。



 「すいません、少しぼーっとしてました」



 「ん、そうか それで、望んでいた魔法に関する知識なら、協会の方に行くと良い」



 「協会?」



 「ああ。この国の魔法に関する事件や事故、依頼などのあらゆる事象は、ガウス魔法協会によって扱われている。私に聞くより、そちらに行った方がより詳しい情報を手に入れられるだろう」



 そう言って、顔にガーゼを貼られたゴードンは立ち上がる。

 それに七海とモモの二人も続いた。



 「分かりました、そうします。有り難うございます」



 「なぁに、()()()男の頼みだ! これくらいはしてやらないと、な、モモ?」



 七海が深々と頭を下げて感謝すると、ゴードンはニヤつきながらモモを見る。

 その彼女は、両手の人差し指をくりくりさせて、念仏のように小さく何かを反芻している。顔はほんのり赤い。

 


 「……モモの……、ハルカさん……、モモの……、ハルカさん……、モモの……」



 「不甲斐なさそうだが、気の使える優しい奴じゃないか。頑張れ……よッ」



 七海には聞こえないよう、同じく小さな声でゴードンが囁いてモモの背中を軽く押す。

 軽くとは言いつつも、モモの華奢な身体は、強靭な筋肉に撥ねられて七海へと勢い良く吸い寄せられていく。



 「えっ!? あっ……、ハルカさんあぶな……わあああああ!!!」



 そして無事、彼の胸に着地した。咄嗟に、七海もそれを優しく包み込んだ。

 今まで気付かなかったモモの髪の甘い香りが、七海の鼻の奥を擽る。

 肉付きこそないが、女性らしい柔らかさが服越しにも伝わってくる。


 二人はどうすることも出来ないまま、数秒間抱き合う。

 胸の中で顔を埋めていたモモも、顔を上げて七海にうっとりとした視線を送る。


 ――ッキタコレェ!

 この“外的な力で偶然ヒロインとイイ感じになっちゃう”パターン。

 これはいいよね? チューしていいんだよね? モモも待ってるよね?


 七海も臨戦態勢に入って、唇ただ一点に持ちうる全ての意識を集める。

 


 

 ……ナナミ、行っきま――――




 べちんッッッ

 



 ()()とは違う感触が、七海の右頬を襲った。

 


 「近いですっ!!! ……………そんなの、まだ、です」

 


 彼女の“おあずけ”は小さくて遠かった。その近距離の七海でも拾えないほどに。







 ……もしかして僕、やっちゃった?



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