表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/51

007 開店準備

「商品はこれでいいとして、あと開店にあたって必要なものが色々あると思うのですが……」

 俺はエステバンさんに、さらに開店までの相談を続ける。

「店の内装などは大丈夫ですか?」

「はい。それはお陰様で、健太がすぐに開店出来る状態にしてくれていましたので」

「そうですか。では、あとは売子などの店員はどうでしょう?扱う商材を考えると、すぐにお客さんは押しかけてくると思いますよ」

「確かに私ひとりで、というわけにはいかなそうですね。そういう店員とかのスタッフは、どこで募集すればよろしいんでしょうか?」

「それは、ここ商人ギルドで募集を掛けられますので、ご安心ください」

「よかった。ちなみになんですが、売子さんの給料はいかほど想定すればいいんでしょうか?」

「専門職ではないので、未経験の若い者で1日銀貨2、3枚。経験者で銀貨4、5枚ほどでしょうか」

「なるほど。うちは商品の種類は少なく特別な知識もいりませんので、質よりは量を、つまり人数を重視しようかと思うのですが」

「では若い未経験者可で募集をかけましょう。種族はどうしますか?」

「種族ですか?」

「はい、エルフやドワーフ、それに獣人もおりますので」

 急にファンタジー設定きたぁ!ビジネスの話ばかりしていたので、ここが異世界ということをすっかり忘れていた。

「種族のことは特に考えてません。売子を楽しんでやってくれる人なら誰でもいいです。ただ売子なので女性のほうがいいかなとは思いますが」

 出来れば可愛い子が希望ですと心の中でつぶやいてみる。

「了解しました。たぶん数日で何人か集まると思いますので、あとはご自身で面接して決めてください」

「わ、分かりました」

 面接か。いつも受ける側だったんで、面接するほうは初めてだな。

「他にはなにかございますか?」

 そうエステバンさんが優しく聞いてくれる。なにせ異世界に来たばかりなので、知らないことばかりだ。なので聞きたいこと自体が何なのかさえ分からない状態だった。

「あ、そうだ!税金とかって、どういう感じになってますでしょうか?」

 前に給料が凄く上がった時に、翌年から税金も跳ね上がったという苦い経験がある。特にこれから勤め人ではなくビジネスをやるのなら、なおさら税金には気を付けないといけない。

「税ですか?商人に関しては税はありません。なにせどれだけの経費と売り上げなのか、王国に調べる術はありませんからね」

 なるほど。確かに昔の日本も商人は税金を払っていなかって聞いたことがある。確かにハッキリ取れるのは年貢の米ぐらいしかなかっただろうしな。お百姓さん可哀そう。そしてありがとう。

「ただ、この王都ディーデンで商売をするには、この商人ギルドに登録する必要があります。その登録には毎年払う年会費が必要で、その額は商売をする店舗の広さで変わります」

「なるほど大型店舗からは多く取り、露店などからはあまり取らないということですね」

「その通りです。ちなみにタクマさんの店舗ですと、意外と広いので年会費は金貨4枚になります」

 俺が出した店の権利書を見ながらエステバンさんが教えてくれた。日本円にして約56万円か。けっこうな金額だが、それが高いのか安いのか今は分からない。

「すでにケンタさんが3年分の会費をお支払い済みですから、しばらく支払いは大丈夫ですので」

 おおっ!何から何までありがとう、健太。

「色々とお教えいただきありがとうございます。とりあえず今日はこれで大丈夫かと思います。もちろん、後から色々とお聞きしたいことが出てくるとは思いますが」

 俺はこれ以上エステバンさんの手を煩わしたくなかったので、ここでいったん話を切り上げることにした。このまま色々と聞きたいことを聞いていたら明日になってしまいそうだ。

「分かりました。では最後に、タクマさんの担当を紹介しておきます……お~い!いるかね!?」

「はい」

 エステバンさんが扉の向こうに声を掛けると、ひとりの美しい女性が部屋へ入って来た。

 スラッとした長身の抜群なボディスタイルで、その美しいスタイルを際立たせるようにタイトなグレーのスーツのような服を着ている。異世界にこんな服もあるんだ。

 さらに顔もスタイルに負けじと美しく、絵に描いたようなクールな美形である。髪は眩しいばかりの美しい金色で腰ほどはあろうかというストレートのロングヘアーだ。

 そしてその美女の耳はピンと長く尖っている。エルフきたぁー!

「リーナスです。よろしくお願い致します」

 そう言うとその美人エルフさんは軽くお辞儀をした。しばらく見惚れている俺の目を覚ますようにエステバンさんが声を掛けてきた。

「このリーナスがタクマさんの担当としてお世話をいたしますので、彼女に何でもご相談ください」

「は、はい。ありがとうございます」

 思わず声が裏返る。彼女はモデルなどの金髪外国人の美女レベルではない。まさに異世界レベルなのだ。そりゃ声も裏返るというものだろう。

「わたくしは基本このギルドにおりますので、いつでもお声掛けください」

「わ、分かりました」

「フフフ、エルフは苦手ですか?」

 そう言ってリーナスさんはいたずらっぽく微笑んだ。

「い、いえ!そんなことはまったく!」

 美人が苦手ですが、嫌いではありません!エルフもいま大好きになりました!

「よかった。それでは今後ともよろしくお願い致します」

「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します!」

 俺は緊張を隠しながら、なんとかギルドマスターの部屋から脱出した。

 不安はまだまだあるけれど、何とか異世界でやっていけそうです。


「うーん、こんな感じかなぁ……」

 商人ギルドから自分の店へと戻った俺は、店舗部分にあったカウンターに座り、紙に店舗のレイアウトを描きながらかれこれ1時間ほど唸っていた。

 紙は百円ショップで買った、茶色い紙のメモ帳を使っている。真っ白な紙だとこの異世界では凄過ぎると質になると思い、わざわざ厚手のザラザラとした紙質のものを探したのだ。

 もちろん書く物は鉛筆を使用している。鉛筆削りはプラスチックの物しかなかったため買わなかった。おかげで久しぶりナイフで鉛筆を削るはめになる。

「紙の上で色々考えてもピンとこないなぁ」

 そんなことに1時間掛けてようやく気付いた俺は、とりあえず店舗部分の模様替えすることにした。

 店は棚などに品物を陳列して客が選ぶ、というスタイルにはしない。販売する物は客が手にして吟味する品物でもないし、扱う品数も店としてはかなり少ない。なのでカウンター越しに注文を受けて品物をやり取りするスタイルを取ることにしたのだ。

 というわけで店舗入り口から遠い奥にあったカウンターを、一気に入り口のすぐ前まで移動させる。造り付けではないので動かせはしたが、カウンターは意外と重く、文字通りかなりの重労働となった。

 そしてカウンターの後ろに棚を移動させ、商品置き場とした。でも塩と砂糖は50ガロル毎の量り売りなので、棚には並べられないな。

 あとで木樽か木箱を買って来て、それに入れることにしよう。塩を売ってたおばちゃんが升で計量してたので、あとでそれも探して買わないとな。

 次にカウンターの後ろ、店舗奥にある扉から、隣の部屋へと移動する。

 この部屋は店舗部分と違って光源が無いので薄暗い。あとで照明もなんとかしないといけないな。

 ここは在庫置き場と、スタッフの休憩室にする予定だ。いまは家具などはいっさい無いので、ここも何とかしないといけない。

 そしてこの部屋には2階への階段がある。忙しくて2階部分をほったらかしにしていたので、確認のため階段を上がった。

 2階部分には部屋が3つあった。ふたつの部屋にはベッドと小さなテーブルとイス、あとは造り付けのクローゼットがある。住み込みで働けるというわけだ。

 最後の部屋は何も無いガランとした空き部屋だった。ここの使い道はあとで考えよう。

 あとは異世界と俺の世界とをつなぐ扉のある地下室で、この建物の全てということになる。

「……風呂とトイレはないのか」

 風呂はまだしもトイレが無いというのはきつい。どこかに公衆トイレのようなものがあるのか、それとも野……いやいや、そんなことはないと思うが。あとでリーナスさんに聞いてみよう。

 そんなことを考えながら店舗部分へ戻ると、いつの間にか薄暗くなっている。そろそろ夕方のようだ。

 LEDライトを出そうとした俺は、ふと手を止める。これも早めに現地の光源に変更したほうがいいだろう。

 俺は外へ出ると、光源を求めて先日行った雑貨屋へと向かった。

「いらっしゃい」

 相変わらず不愛想なおっちゃんが、ムスッとした表情むでむかえてくれる。この異世界ではお客様は神様ではないようだ。

「あの、ランプとかってありますか?」

「あるよ」

 そう言っておっちゃんは店の奥からランプを持って来てくれた。持って歩けるような小ぶりな物と、電気ポットぐらいある少し大き目の物だ。

「小さいのが銀貨4枚で大きいのが銀貨10枚だ」

 歪んでいるとはいえガラスを使っているので少し高いようだ。日本の感覚だと小さいのが5600円で大きいほうが1万4000円相当だ。

「じゃあ両方ともください。あとロウソクみたいのはありますか?」

 そう言うとおっちゃんは棚から2本のロウソク出してきた。

「小さいのが銅貨30枚で大きいのが50枚」

 大きいほうはペンぐらいの長さで太さは魚肉ソーセージぐらいか。小さいのは、そのちょうど半分ぐらいのサイズだ。

 色は白ではなく少し茶色く、よく見ると所々に不純物がポツポツと見える。

「じゃあ、これもふたつともください。あと火を点ける道具とかってありますか?」

「火打石なら銀貨3枚だよ」

「じゃあそれもください」

 火打石は何回も使えるとはいえ4200円ほどもするのか。

 やはりマッチとかの便利な物はないようだ。この辺も販売したら、けっこう売れそうだな。

 とりあえずこれで照明は何とかなりそうだ。

「油は半分だけ入ってるから、欲しかったら2軒隣の油屋で買いな」

 おっちゃんはどうせ聞かれると思ったのか、いい情報を教えてくれた。無愛想だが、わりと親切である。

「ありがとうございました」

 そうお礼を言いランプなどの品物を先日ここで買った布袋に詰めると店を出た。

 そして油屋で油を一缶、購入する。1リットルぐらい入って銀貨1枚、1400円だった。燃料もそんなに安くなさそうだ。


 自分の店に帰り、さっそくランプを点けてみる。しかし、これがなかなか点かない。火打石なんて初めて使ったので、どうも勝手が分からないのだ。

 悪戦苦闘すること数十分、ようやくランプに小さな火が点いた。消えてしまわないように急いでガラスのカバーを被せる。

「うん……暗いな」

 大きいほうのランプを点けたにもかかわらず、店の中は薄っすらとしか明るくならない。

 ゆらゆらと静かに揺らめくランプの火が灯す明かりは、白くなく黄色い心が落ち着く優しい明かりだ。しかし、いま必要なのは優しさではなく明るさなのだ。

 現代社会に慣れた俺の目は、この程度の明かりでは暗く感じてしまうようだ。

「こりゃ1個じゃ足りないな」

 今のところ夜間営業は考えていないが、この明かりでは作業がしづらいのが問題だった。

 この辺の対策も考えないといけないな。

「こっちはどうかな?」

 俺はロウソクのほうも試すため、ランプの火で点けてみる。ロウソクの火は少し小さいものの、俺の世界の物とあまり変わらないようだ。

 ただ煙が少し多いような気がする。ロウソクってこんなに煙が出たっけ?あんまり使わないから分からないが、やはり不純物が多いせいだろうか。

「さてと……今日はこの辺で切り上げるか」

 すっかり外は暗くなってきている。こちらの夜は電気が無いのでかなり暗い。正直ちょっと怖いので、今日はもう帰るとしよう。

 俺はロウソクで小さいほうのランプに火を点けると、ロウソクと大きいランプの火を消した。

 火事だけは絶対に注意しなければならない。この世界の消火体制がどうなっているか分からないが、開店前に店が全焼などシャレにならない。

 火を点けた小さなランプを持つと、俺は地下室へと降りていく。そして扉をくぐり抜け、自宅へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ