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004異世界金貨の価値は?

 異世界へ初めて行った翌日、上野と秋葉原の間にある御徒町に俺は来ていた。

 この御徒町にはジュエリーショップや貴金属を扱う店が、数多く集まている。事務用品販売時代には営業で何回か来たことがある場所だ。

 その御徒町に来た目的は、異世界の金貨を現金に換金できるか確認するためだった。

 もし金貨を現金化できないと、せっかく異世界で稼いでも、こちらでは1円も使えないということになってしまう。

 まぁ、そうなったら異世界で現金化できそうなアイテムを買って持ち込むということも出来るだろうが、そんな二度手間は出来ればしたくなかった。

 そんなこんなで、ここ御徒町で貴金属店を巡っているのだが……。

「申し訳ございませんが、当店ではこちらの商品はお取り扱い出来ません」

「そ、そうですか……」

 貴金属店の小洒落た店員さんが、笑顔で俺が渡した異世界の金貨を返してきた。

「ハァ……またダメか」

 店を出た俺は、思わず大きくため息をついていた。断わられたのは、これで6軒目だったからだ。

 どうやら誰も見たことも無い異世界の金貨をまとめに取り扱ってくる店はなさそうだ。いっそ潰すか溶かすかして、金の塊として売るほうがいいのか……。

「可愛そうに、また断られたようだ。たぶん盗品か何かなんだろう」

 呆然と立ち尽くす俺の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。

 振り向くと褐色の肌をした外国人が携帯で誰かと話している。上等なスーツを着ておりネクタイはしていないが、そこがまたお洒落だった。胸元から太い金のチェーンネックレスがのぞき、つけてる時計も黄金に輝くいかにも高級そうなものをしている。

 ボーッとその外人さんを見ていると、向こうもこちらの視線に気付いたのか、思わず目が合ってしまった。

「盗品じゃないんですけどね、ハハハ」

 目が合った照れ隠しで、俺は思わずそんなことを口にしてしまった。その途端、外人さんがビックリしたような顔で俺を見つめてきた。そして慌てて携帯を切ると、こちらへ急ぎ足で近づいてくる。

 おいおいなんだよ?怖いよ。

 俺がビビッていると、その外人さんは俺の目の前で来るとニッコリと微笑んだ。

「いや、失礼しました。まさかそんな流暢なヒンディー語を話される方だとは思いもしなかったもので」

「ヒンディー語?」

「かなりお困りの様子を見かけたもので。言葉が分からないだろうと、つい失礼なことを申してしまいました。すいません」

「い、いえいえ、ぜんぜん気にしてませんから。こちらこそ気を使わせてしまって、申し訳ありません」

 外人さんは日本語を喋り、俺も普通に日本語を話しているつもりだったのだが。

 俺は自分の指にはめっぱなしだった指輪に気付き、軽く触れてその存在を確かめた。どうやらこの指輪は異世界だけでなく、この俺の世界でもあらゆる言語に対応するようだ。

「実は1時間ほど前にも、あなたを違う店でお見かけしたんですよ。ずっと貴金属店を回られているようですが」

「そうなんですよ。金貨を換金したいのですが、どうも正体不明の金貨でして……」

「よろしければ見せてもらっても?」

「え?」

 思わず俺は半歩下がってしまう。

「ああ、失礼しました。わたくし、こういう者でして」

 そう言って外人さんが名刺を渡してきた。

「デリー貴金属、代表取締役ハルシル・ムンデ」

「おお、凄いです!デーヴァナーガリーも読めるのですね!」

 すんません、日本語にしか見えませんです。デーバうんたらって、なんですか?

「わたくしも金を扱っておりますので、ぜひその金貨を見せていただけませんか?」

「わ、分かりました」

 そう言って俺は異世界の金貨を1枚、手渡した。

 ハルシルさんは俺から金貨を受け取ると、今までの優しい表情を一変させ真剣な顔で金貨を調べ始めた。入念にチェックしたかと思うと掌で重さを確認したり、金貨に爪を立てたりしている。

「詳しく機械を使って調べなければ分かりませんが、どうやら金には間違いないようですね」

「あ、そうですか……」

 俺はハルシルさんの鑑定に少し安心する。

「重さは1オンス金貨よりはあるので、たぶん40グラム前後でしょう。金の含有量は検査しないと分かりません」

「なんで皆さん買い取ってくれないんでしょうか?」

「ずばり訳が分からないからです」

「え?」

「わたくしは長年、金を扱ってきましたが、こんなデザインの金貨は初めて見ました。さらにデザインが非常に素晴らしく優れている。逆にこれは偽物だとしても凝り過ぎなのです」

「つ、つまり?」

「つまりこの金貨は、金は金なのだが得たいが知れない気持ち悪い物なので無理して扱いたくない、というのが店側の本心でしょう」

「そ、そんな……」

 まいった。金貨をそのまま現金化するという安易な考えは消滅してしまった。

「しかし、これも何かの縁です。どうですか、うちで引き取らせていただけませんか?」

「え?」

 ハルシルさんは、またニッコリとした笑顔に戻って俺に提案してきた。

「ただし、手数料を20%いただきたい。金取り引きの手数料としては少し高いですが、その代わり所得申告不要のお金でお支払いですますよ」

 なんか少し怪しい内容を含んでいるが、俺としたらかなり有難い提案ではある。

 俺の金貨の怪しさに気付いたハルシルさんは、だったらということで怪しい話も織り交ぜて提案してきたのだろう。

 この短い会話の中から色々情報を読み取り、すぐに対応する。しかも顔は笑顔で、だ。

 恐ろしやハルシルさん。これから商人としてやっていく俺には、見習うことだらけだった。

「いかがでしょうか?」

「条件はいいのですが、大量に換金できますか?しかも継続的に」

「5千万円までなら、すぐに現金で。3億円までなら20時間以内にご用意できます。それを超える金額ですと数日かかりますが」

「おお、凄い!じゅ、充分です」

 さすが金を扱っているインド人だけあって、動かせる金額が半端ない。

「ですが、この金貨の素性とお渡しするお金がお金だけに、手渡しのみとなりますが、よろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「では、こちらの金貨を検査しますので、一日預からせていただけますか?」

「はい……あの、出来ましたら今回は5枚ほど、換金していただけますか?」

 そう言いながら、俺は金貨をあと4枚取り出した。

「おお、いいですね。各金貨の重さや含有量の誤差の確認にもなるので複数枚あると助かります。それでは金貨5枚、お預かりさせていただきます」

 その後、携帯番号を交換して、俺たちは別れた。

 これで何とか金貨を換金することが出来そうだ。一番難しい問題だと思っていた部分の解決目処が早くも出来てしまった。

 これは良い流れになっているかもしれないな。ビジネスとしては良い傾向なんじゃないだろうか。

「よし!次だ」

 俺はこの流れに乗って異世界で売るアイテムを探すため、次の店へと移動した。

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