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030 マジックアイテム

「なんで、みんな怒ってるんだよ?」

 ミランダさんには明日の朝から来てもらうということで、今日のところは帰ってもらった。

 その後、納得のいっていないセシルさんとリサとミーナとの話し合いがもたれたのだった。

「私は別に怒ってはいません」

 そう言ってリサはそっぽを向く。怒ってるじゃないか~。

「店長がそんなエロエロ魔人だったとは知らなかったニャ!」

 ミーナが頬をふくらませて抗議して来た。魔人といわれるほどエロではないと思うが。

「誤解だよ。俺はミランダさんを、そんないやらしい理由で雇ったりしないよ」

「どうだかニャ……」

「確かにミランダさんは妖艶で、なんか大人の色気があって、良い匂いもするけど、それは雇った理由では無い」

「やっぱエロエロ大魔神ニャ!」

 ついに大魔神になってしまった。

「本当にエロ重視じゃないってば」

「ブ~」

 ミーナの頬がいっそうふくらみ割れそうな勢いだ。

 セシルさんを見ると、やはり冷ややかな目で俺を見ている。

「タクマ殿に忠誠を尽くすと決めた以上、どんな理不尽な命令にも従うつもりです」

 理不尽って。

「本当に純粋に、人手がすぐにでも欲しいだけなんだ。それにメイドさんをやっていたってことは、掃除だけでなく、裏方の仕事も出来ると思ったんだよ」

 それでもまだ三人は不満そうだ。いまミランダさんの必要性を訴えても無駄な気がしてきた。

 でも、本当にこれから客は、どんどん増えていくのが予想されるのだ。いますぐミランダさんを入れたとしても、まだまだ人手は足らないくらいなのだ。

「分かってくれよ、みんなぁ~」

「ぼ、僕に少し、あ、案があるのですが……」

 みんなその言葉に顔を上げる。声は2階へと続く階段から聞こえてきたのだ。

 その階段には、リットが立っていた。どうやらずっと2階に避難していたらしい。頭の良い子だ。

「案とは、なんです?」

 セシルさんがリットに問いかけた。突然のリットの登場に驚いてはいたが、珍しく積極的な彼に少し嬉しそうだ。

「マ、マジックアイテムに魅力を下げるというものがあると聞いたことがあります。もしかしたら、それを使えば」

「なるほど」

 セシルさんがウンウンと頷いている。なんか凄い単語を素直に受け入れてるが、なるほどなのか?

「ミランダさんの魅力が下がれば、いいという問題なのか?」

「そういう問題です」

 セシルさんが当たり前だという顔をする。リサとミーナも同意して頷く。

 え?本当に?そういう問題なの?

「それともタクマ殿は、ミランダさんのあのエロエロな魅力がないと、雇わないとでも言うのですか?」

「い、いや、そんなことはないけど……」

 痛いところをつかれた。エロは関係無いと啖呵(たんか)を切ったばかりなのだ。

「じゃ、じゃあ、そのマジックアイテムがあったら、みんなミランダさんの採用を反対しないんだね?」

 渋々といった感じだが、みんな首を縦に振って同意する。俺もなんか納得はいかないが、とりあえずみんなそれでいいと言うなら、それで手を打とう。

「よし。それでリット、マジックアイテムは、どこで手に入るんだ?」


「これがマジックショップか」

 俺たちはリットの案内で、マジックアイテムが売っているというマジックショップに来ていた。

「それにしてもリットは、こういうのに興味があるんだね」

「す、少しですが……」

「ぜんぜん知らなかったわ」

 セシルさんも初耳のようだ。かなり意外だという感じでリットを見ている。

「早く入るニャ!」

 振り向くと、ミーナとリサも着いて来ていた。

「君たちは帰ってもいいんだよ」

「なんでニャ!?」

「気になりますので……」

 ミーナはともかくリサまでも着いてくるとは……まぁいいんだけど。


「いらっしゃいませ」

 マジックショップに入ると、ローブを着たいかにもな感じの女性が迎えてくれた。

 店内はマジックアイテムで埋め尽くされているかと思いきや、カウンターのあるシンプルな作りで、あまり品物は陳列されてはいなかった。

 うちの店と似ている作りだ。

「なにかお探しですか?」

 ローブの女性は落ち着いた口調で、俺に用件を聞いてくる。

「あ、あのぉ……魅力というか女性的なフェロモンというか、なんかそういのを下げるようなアイテムはないかなぁと」

「ああ、お連れの女性方は、みなさん魅力的ですものねぇ」

 そう言って、俺の連れを見回し、意味深な感じで微笑んだ。みんな怒るかと思いきや、なんか満更でも無い顔をしている。

 リット、なんでお前も照れているんだ?

「ちょっと仕事に支障がありまして、少しばかりそういうのを下げたいかなぁと」

「それなら、ちょうどいいアイテムがございますよ」

 そう言ってローブの女性は後ろにずらりと並ぶ引き出し棚のひとつから、何かアイテムを取り出しカウンターに置いた。

「眼鏡?」

 それは見た目は普通の眼鏡だった。縁は紫色で、レンズは入っているが度はないようだ。

「これをかければ、魅力が半減するというマジックアイテムです。遠い昔、美しい妻の浮気を心配した貴族が作らせたと言われております」

 話を聞いた時は半信半疑だったが、本当にそんなアイテムがあるんだ。リットはよくこんなアイテムの存在を知っていたなぁ。

「これを掛けている時だけ、効果が発揮されます。外せば、その女性の魅力は元通りです」

「使用回数とか期限のようなものは、あるんですか?」

「半永久的に使えます。なにせこのマジックアイテムは1500年前の物ですから」

「そんな昔の物なんですか!?」

 俺だけじゃなく、みんなも驚いていた。リットだけは知っているという顔だ。本当に詳しいみたいだな。

「試してみますか?」

「いいんですか?」

「はい。誰かお連れの女性に使ってみてください」

 お連れの女性と言われても……。俺が見ると、みんないっせいに目を反らした。なんだよ、だったら着いて来んなよなぁ。

 しかし、リサに使っても効果は分からなそうだし、ミーナはなんか違う。

「セシルさん、お願いします」

「ええっ!私ですかっ!?」

 消去法でいくとセシルさんしかいないので、ここは我慢してもらうしかない。

 セシルさんは俺が差し出した眼鏡を受け取ると、恐る恐る顔にかけた。

「あっ!」

 効果ありっ!という感じではないが、なんかセシルさんが普通に見えるようになった気がするぞ。

 なんかその辺を歩いているおばちゃんを見る感覚と一緒な感じだ。セシルさんにあまり興味が沸かないのだ。

「た、確かに効果ありますね」

 俺がそう言うとセシルさんが慌てて眼鏡を外す。顔を真っ赤にして涙目で俺を睨んでくる。なんか可愛い。

「はっ!効果が切れた!」

 なるほど。本当にこんなマジックアイテムがあるんだなぁ。

 そう言えば俺も、どんな世界の言葉や文字でも分かる指輪をしていたんだっけ。

「いかがですか?」

「いや、確かに効果がありますね……それで、おいくらでしょうか、これ?」

「あまり需要が無いアイテムなのでお安いですよ。たった金貨5枚です」

「き、金貨5枚!?」

 驚いた声を出したのはセシルさんだった。もちろん安いというのではなく、高いというリアクションだろう。

 金貨5枚……日本円で70万円ほどか。マジックアイテムと考えると安いのか?そもそも俺の世界に無いものだから、判断が出来ないのだが。

「このレア度で5枚は、ちょっと高くないですか?」

 いきなり、リットが喋り出した。なんかいつもと違って流暢な気がする。

「でも5枚は通常より安いんですよ」

 ローブの女性も丁寧に対応しているが、子供だと思って相手にしていない感じだ。

「7年前のシリオルス遺跡の発掘で、この眼鏡などの魅力低下アイテムがたくさん発掘されました。それなのに発掘以前の値段で売るのですか?」

 そのリットの言葉にローブの女性の表情が変わる。

「も、もの凄く物知りだったのね、お嬢ちゃん」

「はい。マジックアイテムが好きなもので。でもお嬢ちゃんじゃないですよ」

 ローブの女性は意味がよく分からないのか、リットのお嬢ちゃん否定は軽くスルーしていた。まぁそうだろうな。

「では、金貨4枚ということで」

 けっきょく最終的に、金貨1枚も値下げしてもらえた。14万円のプライスダウンだから、凄いものだ。

 俺たちは支払いを済ませ、商品を受け取り店を出ようとすると、ローブの女性が声をかけてきた。

「その剣ですが、魔力が切れているようですね」

 その声にセシルさんが思わず腰の剣を掴む。

「い、いえ、これはこれでいいのです」

 どういうことかと思ったが、セシルさんは店を逃げるように出てしまった。慌てて俺たちは、あとを追う。

「セシルさん、魔力切れって、どういう意味なんですか?」

 俺が聞くとセシルさんは自分の剣を見ながら、仕方ないという感じで話しだした。

「この兄の形見の剣も、マジックアイテムなんです。ですが今は魔力切れで、本来の力が出せません」

「でも、さっき半永久的に使えるって言ってましたよね?」

「それはものにもよりますが、こういった一気に強い魔力を使う武具は、使用すると魔力切れを起こすものが多いのです」

「そうだったんですか」

「でもご安心ください。この剣は魔力が無くとも、普通の剣とは比べ物にならないほどの切れ味を持つ名剣ですので」

 そう言ってセシルさんは誇らしげに剣を見つめていた。自分の髪の毛を犠牲にしてでも守った剣だもんなぁ。

「せっかくなので、魔力を補充しましょうよ」

「いえ、魔力補充は安くありませんので、今の私には……」

「セシルさんは店の警護担当ですよね。だから装備が良いに越したことはありません。なので必要経費として異世界商会からお出しします」

「そ、そんなことまでしていただいては……」

「店にとって必要なことですので。リット、剣の魔力はどこで補充できるんだ?」

「魔剣を扱っている大きな武器屋なら」

「よし、さっそく行こう。案内してくれ」

「はい!」

 なぜかセシルさんよりもリットのほうが嬉しそうだ。彼も剣のことなど、姉に苦労を掛けていることを気にしていたんだろうな。

 こうして我々一行は、次に武器屋へと向かったのだった。


「こりゃ~なかなかの名剣だなぁ」

 武器屋のドワーフである主人が、セシルさんの剣を受け取りしげしげと眺めている。

 セシルさんの言う通り、なかなかの名剣のようだ。

「魔力の補充をお願いしたいんですが」

「どれぐらい入れる?この剣だと、けっこう入るぜ」

 ガソリンみたいに20リットルとか満タンとか出来るのか。

「もちろん満タンで」

「金貨5枚はいくぜ」

 おお、充填だけで70万円か。凄いな。

「それで、お願いします」

「そんなに入れなくとも」

 セシルさんが慌てて俺を止めてくる。ここに来るまで、ずっと恐縮しっぱなしなのだ。

「いえ、せっかくなんで、満タン入れましょう」

「あと、手入れはちゃんとしてあるが、一回、しっかり研ぎ直したほうがいいかもな」

 刃の感じを指で確認しながら、ドワーフの主人が言ってきた。

「時間かかりますか?」

「いや、そんな掛からないぜ。ちなみに研ぎ賃は銀貨15枚な」

「じゃあ、それもお願いします」

「よし。そんじゃ、ちょっと待っててくれ」

 そう言ってドワーフの主人は、剣を持って奥の工房へと入って行った。

「なにからなにまで、本当にすいません」

「いえ、店を守ってもらっているので、当然の出費です」

 その後、時間潰しにそれぞれ武器屋のアイテムを見て回った。どれもロールプレイングなどで見たことがある武器で、ちょっと興奮する。

 こうなってくると防具屋も見に行きたいな。そういえばセシルさんは防具を着けないんだろうか?

「あの、セシルさん」

「なんでしょうか?」

「セシルさんは防具って、どうしてるんですか?」

「あ……防具は全て手放してしまいました」

 ああ、そうか。お金に苦労してたんだから、当然か。剣だけを守っていたのは、お兄さんの形見だったからだろう。

「じゃあ、新しく買い揃えませんか?」

「いえ、もうこれ以上、タクマ殿に甘えることは出来ません。それにもう騎士を辞めた身としては、今さらフルプレートアーマーを着るのもどうかと思いますし」

 そう言うものなのか。いや気を遣っているだけなのかもしれないな。

 でも見てみたかったな、セシルさんの騎士姿を。

「兄ちゃんたち、出来たぞ~!」

 ドワーフの主人が剣を持って工房から出て来た。額には、びっしりと汗が浮かんでいる。

「ありがとうございます」

 セシルさんが自分の剣を受け取ると、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。

「おおっ!」

 思わず俺だけでなく、全員が声を漏らした。素人目に見ても、剣の輝きが違うのだ。見ただけで切れ味が良いのが分かる。

「ちょっと振ってみてくれ」

 仕上がりを確認したいのか、ドワーフの主人がセシルさんにリクエストしてきた。

 セシルさんは軽く頷くと、広い場所へ移動する。そして一度大きく息を吐くと、剣を縦と横に連続で素早く振りぬいた。

「す、凄い……」

 セシルさんの本気の剣捌きを初めて目の当たりにして、俺は思わず見とれてしまった。鋭い強さの中に、美しさがあるのだ。

 振りぬいた剣筋が薄っすらと目に残っている。いや違う!本当に剣筋が青白く、空中に残っているのだ。

「こ、これが魔剣か……」

「いやいや、剣も凄いが、あの姉ちゃんの腕もかなりのもんだな」

 ドワーフの主人がセシルさんの剣の腕に感心している。本当にセシルさんは凄い騎士だったんだろう。

「いやぁ、ご主人、凄い良くなりました。ありがとうございます」

「いやいや、こっちも良い剣を触らしてもらって楽しかったよ」

 セシルさんが鞘に剣をおさめながら、ドワーフの主人にお礼を言う。ドワーフの主人も満足気だ。

「ちょっとダメですよ!」

 店内にリサの声が響く。見ると、ミーナが短剣を何本も宙に投げてジャグリングをしていた。器用だな。なんであんなことが出来るんだ?

 みんなも飽きてきたようだし、もう帰ろうか。いや、もう遅くなってきたことだし……。

「これからグリフォン亭行くけど、一緒に来る人?」

「はいはいはいニャ!」

 君は聞かなくても分かってる。みんなも賛成のようだ。

 こうしてみんなで赤いグリフォン亭へと繰り出すのだった。そういえばセシルさんとリットとは、あの店は初めてだったな。

 そんなことを考えながら俺たちは商人通りを歩くのだった。

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