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016 異世界への扉の危機

 昨日の夜は大量の金貨を持って、御徒町のインド人、ハルシルさんのところへ換金に行って来た。

 一日の換金限度額は5000万円までと聞いていたが、昨日は手持ちがあるということで金貨470枚全部を6768万円で引き取ってくれた。

 その後、俺は大金を持ってドキドキしながら帰宅したのだった。

 そして明けて今日、俺はいつものように郊外にある倒産した会社の倉庫へとやって来た。しかし、倉庫に近づくと、何かいつもと様子が違う。

 倉庫の前に1台の軽自動車が止まっており、男がふたり、何やら作業しているではないか。

 よく見ると、倉庫の門に鎖をかけて開かないようにしていたのだ。そして、何か白いプレートを門に貼り付けると、車に乗って去って行った。

 俺は急いで倉庫の門に駆け寄り、白いプレートに書かれていることを確認する。

「取り壊しのお知らせ?」

 ヤバい。この倉庫が壊されてしまうのか。それに入り口も封鎖されてしまった。

 時計を見ると、まだ10時少し前だ。だが、もうそろそろリサあたりが出勤してくるかもしれない。

 とりあえず鎖で封鎖されたのは外側の門だけのようだ。中の倉庫自体の扉は、今まで通りのはずだ。いや、そうであってくれ。

 俺は辺りを見回し誰もいないことを確認すると、壁を乗り越えて中へと侵入する。今日はやけにカバンが重い。

「あ、そうか……」

 家に置いておくのが心配だったので、現金6700万円を持って来ているのだった。重さにして7キロ近くあるのだ。

 倉庫入り口の鍵を開けてみると、いつものように簡単に開いた。良かった。ここは変わっていない。

 しかし、もうここで異世界への扉をずっと開きっぱなしにしておくことは、危険で出来なくなってしまった。

 早急に新しい場所を探さなければ。

 とりあえず俺は、慌てて扉を開くと異世界へと急ぐのであった。


「り、臨時休業ですか?」

「なんでなんニャ~?」

 店の扉に『本日、臨時休業いたします。申し訳ございません』と書いた大きな板を掛けた。それを見たふたりが、どうしたことかと聞いてくる。

「申し訳ないんだけど、急用が出来てしまってね。ごめんね。今日はふたりともゆっくり休んで」

「そ、それはいいのですが……」

 リサが心配そうに俺を見てくる。ミーナは頬っぺたを膨らませて不満そうである。

「あと、これお詫びだから、なんか美味しいもんでも食べて」

 そう言ってふたりに銀貨3枚づつを渡す。

「い、いいですよ、そんなこと……」

「やったー!さすが店長ニャ~!」

 拒むリサを無視してミーナが銀貨をもらって大喜びし出した。それを見て仕方なく、リサも銀貨を手に取る。

「なに食べるニャ?なに食べるニャ?」

 そう言いながら、ふたりは店を出て行った。ふたりを見送ると、俺は急いで戸締りをして裏庭に行く。

「おう、もうそろそろ完成だぞ」

 ドワーフの親方が胸を張って報告してきた。

「申し訳ないのですが、急用で出掛けないといけなくなりまして、今日は一日店を閉めることになりました」

「そいつは大変だな。ここは任せて、心配せず急用とやらを片付けちまいなよ」

「ありがとうございます。それでは、あとはよろしくお願いします」

「おう!」

 俺は店に戻り裏庭への扉の鍵も閉めると、急いで地下へ降りて扉をくぐった。


「う~ん、どれも意外と高いなぁ」

 俺はいったん帰宅するとPCを開いて、倉庫の物件をネット検索してみた。しかし倉庫は意外と高く、どれも月50万円ほどする物件ばかりだった。

 倉庫が高い理由は、まず大きいことだった。倉庫だから当たり前なのだが、俺の場合は在庫を長く置いておくわけではないので、そんなに広さを必要としない。車5、6台のスペースがあればいいのだ。

 だが小さい倉庫というものは、なかなか無いらしい。

 さらに倉庫には冷暖房やクレーンなどの設備が付いているものも多く、それもまた倉庫代を高くしている要因でもあった。

「早いとこ見つけないとな」

 今日は臨時休業したが、明日はなるべく休みたくなかった。緊急事態とはいえ、開店して一週間もたたずに店を休むなど考えられなかったのだ。

「とりあえず、ここに行ってみようか」

 俺は東京の府中市にある月40万円の倉庫を、とりあえず選んでみた。新宿から特急に乗って20分ほどで着く、意外と便利な場所といえた。


「う~ん、これでも小さくて安いほうなんですけどねぇ」

 俺はさっそく不動産屋さんに連絡を入れ、物件担当の男性と倉庫を現地視察していた。

 いま見ている倉庫は、車が軽く15台は楽に止められる広さがある。しかし倉庫としては、これでも小さいほうだと言うのだ。

「天井は4メートルは欲しいんですが、広さはこんなにいらないんですよねぇ」

「なかなか難しいですねぇ……似たような倉庫ですが、近くにもう1軒あるので、そちらも見てみますか?」

「そうですね。いちおうお願いします」

 もしそちらの倉庫もダメなら、時間が無いのでこの倉庫に決めてしまおうかな。広すぎるが、狭いよりはいいと割り切って考えよう。

 そう考えながら、不動産屋の車で次の物件へと移動する。

 と、その道中、ある店に目が止まった。それはガレージを改造して作ったバイクショップだった。

「あの、すいません」

「なんでしょう?」

「ああいう大きなガレージみたいなものでも、いいんですけど」

 不動産屋がハザードランプを点けて、ゆっくり車を路肩に止める。

「ああ、ああいう感じですか」

「天井が4メートル以上あって、回りがちゃんと覆われていればいいので。ああ、あと車で商品を搬入したいので、大きなゲートも欲しいですが」

「まさに大き目のガレージのイメージですね」

「どうですか?」

「う~ん……正直ガレージみたいな特殊な物件は、そもそも数が少ないんですよねぇ」

 ダメか。やっぱり、もうあの倉庫にするしかないかな。

「あっ!そうだ!」

 突然、何かを思い出したのか不動産屋が大きな声を上げた。

「ガレージとはちょっと違うんですが、ご希望にそった物件があるかもしれません」

「本当ですが?」

「ここから近いので、とりあえず行ってみましょう」

「お願いします」

 こうして不動産屋に連れて来られたのは、お米屋さんの前だった。

「このお米屋さんのご主人なんですが、去年、お年で引退しましてね。でも子供さんも誰もあとを継がないということで、廃業してしまったんですよ」

 そう言いながら不動産屋は店の扉のほうへは行かずに、横にあるガレージのようなシャッターを開けて俺を中へと案内する。

「おおっ!いいですね!」

 シャッターの中は車が5、6台は入れる広さがあった。さらに左右の壁には大きな棚が取り付けられている。どうやらお米を積んでおいたスペースのようだ。

「意外と評判の良いお米屋さんだったんで、大量のお米を置いていたようですよ」

 これは俺の理想通りの物件だ。このまますぐに使えるところがまたいい。

「ご主人はここを閉められたあと、田舎に戻られてしまって、ここはほったらかしだったんですよ」

 この倉庫部分だけで充分借りる価値のある物件だ。さらに横には店舗もある。いまは分からないが、きっと何かに使えるだろう。

「2階は居住スペースになっていて、キッチンやバストイレもございます。ただ古くてリフォームはしてませんが」

「それで、ここのお値段は?」

「月25万円です。そのかわり敷金礼金はゼロですので」

「すぐ入れますか?」

「はい。ご希望なら今日からでも入れますよ」

「それともうひとつ。ここを会社の事務所として使っても問題ありませんか?」

「店舗型ですので、それはまったく問題ありません」

「では、ここに決めます」

「あ、ありがとうございます!」

 さっそく不動産屋の事務所へと移動し、契約書の手続きに入った。保証人は知人や親に説明するのが面倒臭いので、保証人代行業者に頼んだ。その費用込みで約30万円だ。

 資金礼金が無いのは、安くてありがたいな。

 印鑑証明書は今は持ち合わせてないので、後日でもいいということになった。

 さっそく鍵を3種類もらう。店舗とシャッターと、それに住居用の玄関が脇にあるということだった。

「ありがとうございました」

 不動産屋を出ると、さっそく俺は旧お米屋さんへと向かった。とにかく早く異世界へ向かいたかったのだ。

 だが、これでビクビクしながら倒産した会社の倉庫をコソコソ使わなくてもよくなった。それにこれからは堂々と商品を搬入することも出来るのだ。

 こんなことなら早く借りておくんだったな。

 お米屋さんに着くと、さっそくシャッターの鍵を開けて中に入る。これだけの広さがあれば充分だ。

 大丈夫だとは思うが、とりあえず異世界にまた行けるか心配なので、扉を取り出して床に置く。

「扉よ、開け」

 いつものように呪文を唱えると、床に置いた小さな扉が眩しく輝いた。次の瞬間、目の前に見慣れた巨大な扉が現われる。

「よし。問題無いようだな」

 扉が現われて少し安心した。

 今さらだが、扉はこちら側の世界のどこからでも開くことが出来るようだ。

 さっそくその扉を開けて、異世界へと向かう。

 いつものように光の幕の先には、異世界商会の地下室があった。どこから扉を開いても、異世界側は全てこの地下室へとつながるようだ。

 逸る気持ちをおさえて、階段を上がり店舗を確認する。

 臨時休業なので当たり前だが、店に人は誰もいない。店の前に誰かいるということもなく、どうやら何も問題は起きていないようだ。

 リサとミーナを帰してしまったので、今から店を開けることも出来ないので、今ここでやれることは何も無かった。

 とりあえず、一通り店を確認して安心したので、また元の世界へと戻ることにする。

 バタバタと行ったり来たりで忙しいが、自分の世界のほうに一日いられるチャンスは今後そうないだろう。なので、なるべく向こうの用事を済ませておくことにしたのだ。


「こうやって見ると、あまり物が無かったんだな」

 いま俺は自分の家にいた。お米屋さんのほうではなく、今まで住んでたワンルームのアパートのほうだ。

 お米屋さんの2階は台所からバストイレもあり、リビングと部屋も2つあったので住むには充分だった。

 なので、このアパートの部屋を引き払い、向こうへ引っ越すことに決めたのだ。

 しかし、部屋にある大きな物といえば、一人暮らしサイズの冷蔵庫と32インチのテレビぐらいだ。しかも、どちらもそんなに大きいというほどの物でもない。

「あとはパイプベッドくらいか……」

 いつもコインランドリーを使っていたので、洗濯機は持っていない。それに洗う洋服も10着ほどしかなかったのだが。

「よし。全部捨てよう」

 俺はこれらの物は全部捨てて、全て買い換えることに決めた。いま持っている物が良い物というわけでもなかったし、現金がかなり入って気が大きくなっているというのもある。

 持って行くのはノートパソコンと、気に入ってる洋服を数枚というところかな。

 これだったら引っ越し業者を頼むどころか、俺が持ち運んでも一回で終わってしまう量だ。

 なら、もうここは引き払ってしまおう。

 さっそく不動産屋に電話をして、部屋を引き払う旨を伝える。一か月前申請なので、実際にこの部屋を引き払うのは一か月後だ。

 まだここを少し使うかもしれないので、電気ガス水道は解約しないどおこう。

 次に区役所へ行き、まずは不動産屋に渡す印鑑証明書を取った。そして次に転出届を出し、住所変更の手続きをしておく。

「よし。次は新居のほうだな」

 新居は府中になるので、府中市役所へと向かった。

 そこで、転居届を出して住所変更は完了する。まだ何かここでしておくべき手続きがありそうだが、とりあえずはこれだけでいいか。

 そしてようやく新居へと再びやって来た。

 まずは建物のブレイカーを上げて電気が使えるようにする。その後ネットで電気と水道の使用開始手続きを済ませた。ガスは立ち会いが必要ということで、後日となる。

 さらにネット回線は引っ越し手続きが面倒そうなので、新しく違う回線会社に新規契約で引いてもらうことにした。しかし、それも早くて10日後ということだった。

「さてと……とりあえずはこんなもんかな?」

 まぁまだ細かいものが何かあるとは思うが、これで新居での生活が始められる。

 ただ、物はまだ何も無いのだが。

「しまった。毛布ぐらい持って来るんだった」

 しかし焦る必要は何もない。無いなら買えばいいのだ。

 そう俺には金があるのだから。

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