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001親友からの贈り物

 昨日、俺が勤めていた会社が倒産した。事務用品などを取り扱う、社員百人ほどの会社だった。

 いつものように出社したところ、会社の入り口に倒産を知らせる紙が貼ってあり、誰も会社の中には入れない状態になっていた。

 社長とまったく連絡が取れないと、自分の上司やお偉いさんたちがパニくっていたが、俺はそれを横目に黙って帰宅した。

 高卒で働き出して8年。仕事を失うのは、これで三度目だった。

 最初に就職したのは携帯ゲームの会社だった。高校卒業後、大学に行かず就職もしなかった俺は、とりあえずバイトをすることにした。

 高校の時からゲームは好きで、パソコンで簡単なオリジナルゲームを趣味で作ったりもしていた。なので、楽しそうだという気楽な考えで、携帯ゲームの会社のアルバイトを選んだのだ。

 最初はデバッグ作業だけをやらされていたが、プログラム知識が俺にあると気付かれると、簡単なプログラムもやらされるようになった。そして数か月後、社長から就職しないかと誘いを受け、居心地がの良い職場だったので、そのまま就職することにした。

 作るゲームの評判がなかなか良い会社だったため、給料は良く、一年目からボーナスも出た。

 しかし、そんな順調な生活も三年目に突然、終わりを迎えた。

 社長がいきなり中国系企業に会社を売却してしまったのだ。

 そして突然あらわれた中国人の新社長と経営陣は、我々オリジナルスタッフのリストラを始めたのだった。

 そう彼らが欲しかったのは俺たちという人材ではなく、ゲームソフトのフォーマットと顧客データだけだったのだ。

 まだ若かった俺は、そんな会社に未練もなくすぐに退社して次の仕事を探した。

 そして運良く、携帯フリマ系アプリの会社に再就職することが出来た。

 しかしその三年後、今度は社長が会社の金を持って夜逃げしてしまった。フリマ会員の商品売買処理中の金までも持ち逃げしたため、その当時はかなりのニュースになっていたのを思い出す。

 そして、そのあとに就職したのが昨日、倒産した事務用品の会社というわけだ。

 自分の運の悪さにほとほと呆れる。いや、自分の会社を見る目がダメだったのだろう。

 これも自業自得というやつか。

 昨日から色々と考えた結果、その答えに行きつき、そして俺は全てのやる気を無くして今はただ部屋でボーっとしているのだった。

『ピンポ~ン』

 そんな俺のやる気に合わせるように、気の無い玄関のチャイムが来客を知らせる。

「はいはい誰ですか?」

 そんな言葉をつぶやくが、体はなかなか玄関まで動こうとしなかった。

 普段の倍以上の時間を掛け、俺はようやく玄関にたどり着きドアを開く。

「あっ!ご在宅でしたか。良かった」

 そこには帰ろうと背を向けかけていた、気の良さそうな50歳ぐらいのおっちゃんが立っていた。

大里拓馬(おおさとたくま)さんですか?」

 そのおっちゃんはメモを見ながら俺に名前を確認してきた。

「そうですが……」

 会社の倒産関係の人だろうか?だったら面倒で嫌だな。

「あっ!わたくし決して怪しい者ではありません」

 そんな思いが俺の表情に出ていたのか、おっちゃんは慌てていた。昨日突然無職になったとはいえ、なんか申し訳ない。

「わたくし山崎健太(やまさきけんた)さんからの依頼で荷物をお届けにあがりました者です」

「山崎……健太……」

 知らないおっちゃんから、久しぶりに親友の名前を聞いて少し戸惑った。

 健太は高校からの親友で、よく一緒にゲームなどして遊んだものだった。卒業後はお互いに働き出し、そんなに会えなくなっていたが、それでも月に一、二回は会っていた。

 そんな健太と最後に会ったのは三年ほど前だ。

「今度のビジネスは絶対成功すると思うんだ」

 最後に会ったとき、健太はそんなことを言っていた。

 卒業後、俺はどこかへ就職するという考えしか無かったが、健太は違っていた。あいつはつねに自分で会社やビジネスを始めることばかり考えていたのだ。

 そんな健太の夢の話を聞くのが、俺は大好きだった。

 最後に会ったその日も、次のビジネスについて熱く語っていた。そして俺はそんな健太に100万円を出資したのだった。まだそのころの俺はボーナスも多くもらっていて、かなり羽振りが良かったということもあったのだが。

 最初は親友である俺からの出資を渋った健太だったが、俺のお前の夢に少し乗せてくれという言葉に最後は金を受け取ってくれた。

 もしかしたら、その金を返してくれるということだろうか?

 正直、事務用品の会社は今までと比べ給料もかなり低く、少しづつ貯金を食い潰していた現状を考えると100万円が返ってくるのはかなりありがたい。

「こちらが山崎健太さんからのお届け物です」

 そう言っておっちゃんが小さい箱を渡してきた。

「中身は何ですか?」

「知りません。ただあなたに届けてほしいとだけ言われておりまして」

「そうですか……あ、あの、健太はどうしてますか?」

「お亡くなりになりました。10日ほど前です」

「え?」

 思わず箱を落としそうになった。頭が真っ白になり、ただただおっちゃんの顔を見つめてしまう。そんな俺をおっちゃんは悲しそうな表情で見ながら、言葉を続けた。

「大腸癌でした。わたしは山崎さんが亡くなったら、あなたにこの荷物を届けるように依頼されていた者です。親族ではないので、亡くなったことがすぐに分からず、お荷物のお届けに時間が掛かってしまいました。申し訳ございません」

「健太が……死んだ……」

 ショックだった。まだ26歳の俺たちにとって、死というものは身近には存在せず、想像さえもしたことがないものだった。

 それが親友が、しかも癌で死ぬなんて、夢にも思わなかったことだ。

「申し訳ありませんが、わたしにはそれ以上のことは何も分かりません」

 黙り込んでいた俺に気を使うように、おっちゃんは申し訳なさそうに喋っていた。

「いえ、こちらこそ、わざわざ荷物を届けていただきありがとうございました」

 おっちゃんはそれでもすまなそうに何度も俺に頭を下げながら帰って行った。

 俺はしばらくの間、玄関に立ち尽くしていたが、だんだんと荷物の中身に興味が沸き出してきた。

 勝手に金だと思っていたが、もしかしたら違うかもしれない。そう思い俺は部屋の中に入り、カッターを取り出した。

 箱はただ紙テープでとめてあるだけで厳重な梱包というわけではない。カッターでテープを切ると箱を開く。

「…………なんだこれ?」

 箱の中には小さな扉のようなものが入っていた。取り出してみると鉄で出来ているのか思ったより重みがある。

 試しに扉を開いてみようとしたが、そういう作りではないのかまったく動かなかった。

「…………」

 まったく訳が分からない。

 なにか手掛かりはないかと、さらに箱を覗くと手紙が入っていた。

 健太からのもので手書きではなくワープロ打ちである。

『拓馬へ。突然、変なものを送り付けて申し訳ない。これは異世界へとつながる不思議な扉だ』

「…………」

 俺はしばらく送られてきた小さな扉を見つめていた。あいつは何を言っているのだろうか?

『この扉の入手経過は話が永くなるので割愛する』

「割愛すんな!一番気になるとこだろ!」

 思わず手紙に突っ込みを入れていた。それだけ手紙の内容はぶっ飛んだものだったのだ。

『この扉を使い最高に面白いビジネスをしようとしていた矢先、俺に癌が見つかった。しかも全身に転移しているらしく、もう数か月の命ということだ。本当に残念だ。今までで最高の楽しいビジネスになるはずなのに無念でならない』

 健太のビジネス好きを考えると、本当に悔しかったと思う。まさに無念だったろう。ただ異世界への扉と言われてもなぁ。

『ただこのまま夢半ばで扉を手放すのは、どうしても我慢できない。なので唯一の親友である拓馬に、この扉と俺の夢を託したいと思う。一方的で勝手なことを言っているとは思うが、出来れば死んでいく者の我儘と思って聞いてほしい。拓馬がこの扉を使い大金持ちなることを夢見て、俺は天国へ旅立つことにするよ』

「本当に、なに勝手なこと言ってるんだよ……」

『追伸。お前の投資してくれた100万円は利子を付けて、扉の先の異世界に置いてあるので受け取ってくれ』 

「…………フゥ」

 俺は手紙の内容に思わず大きく息を吐いた。

 普通だったら一概には信じられない内容だ。しかし俺の知っている健太は、こんな冗談を言うような奴ではない。仮に嘘だとしても、こんなすぐにバレる嘘をつく理由が分からない。

 改めて小さな扉を手にしてみる。ちょうど携帯電話ほどのサイズで、かなり精巧に作られている。

 手紙にはもう一枚メモ書きのようなものがあり、そこには扉の使い方が書いてあった。

『扉を地面に置き『扉よ開け』と念じると、高さ3メートル、横2メートルのサイズに扉は巨大化する。扉の先は、すぐに異世界のとある建物の地下へとつながっている。その建物はすでに購入済みなので安心して扉をくぐってもらって大丈夫だ』

 これだけか。あとは何も書いていない。

「とりあえず行ってみろ、ということか」

 不思議ともうすでに扉のことを信じ出している自分に少し驚いた。

 ちょうど仕事も失って、しばらく勤め人にはなりたくないなと思っていたところだ。

 このタイミングで健太から扉が届いたのも何かの運命なのだろう。

 俺は扉をショルダーバッグに入れると、さっそく出掛けることにした。

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