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樹がへし折れるぐらいの勢いでぶつかっても瘤一つで済む死神少女はやっぱり人外だと思いました。

 俺だ。

「こらぁー! 大人しく成仏しなさーい! 大人しく昇天してくれるなら来世でちょこっとだけ幸福をあげますからー!」


「ちょこっとな幸福なんて要るか! バーカ、バァーカ!」


 黒衣に身を包み、大鎌を背負う白髪の少女に子供染みた罵倒を贈る。追い掛けてくる彼女の格好は死神を連想させるが、想像よりは可愛らしい顔立ちだ。ぎゅっと抱き締めてキスの一つでもしてやりたいけども、捕まると強制的に天に召されるから近付く訳には行かない。


 現在、死神少女から逃走する為に森の中を飛んでいる。半透明な体で実体も無いらしいから、目前に木々が迫ってもなんのその。構わず直進してもぶつからないから便利なものだ。因みに、死神少女は危なっかしく木々を避けながら追い掛けてきている。


 時折、「うわっ!」とか、「ほわぁ!?」とか聞こえてくる。


「もう! こっちもお仕事なんですよ! 魂に逃げられたなんて知られたら一生笑われるじゃないですか! それどころか反省文を百枚単位で書かされて研修からやり直しなんですよ! 折角上がったお給料が下がっちゃうじゃないですかー! 鎌コレクション増やしたからピンチなんですよ! 聞いてるんですかー!?」


「知るか! つぅか鎌コレクションってなんだよ! バカかよ! 危ない人かよテメェー!」


「ああーっ!? 今鎌をバカにしましたね!? いいでしょう。貴方を昇天させる前に鎌の良さをこれでもかと――」

「フライング・クロス・チョップ!!」

「――ぐびぇ!?」


 樹を通過してから即座に切り返し、腕をクロスさせて飛び出すと、狙い通り死神少女にクリティカルヒットした。女の子が出しちゃ行けない様な悲鳴を上げ、死神少女は白眼を剥いて追い掛けてきた勢いのままに樹に激突する。


 死神少女の体当たりを受け止めた樹は軋みをあげ、ゆっくりと倒れて大地を揺らした。遠くで衝撃に驚いたように小鳥の群れが飛び立っている。


 折れた樹の根元で、ドでかいたん瘤を作った死神少女が目を回している。死んだか? と心配になり近付いてみると、胸が規則的に動いていた。どうやら気を失っただけらしい。セーフ!


「さてと、どう身を隠せばいいのやら」


 追い掛けっこに発展する前、地中に隠れたのだがあっという間に発見され危うく捕獲されかけた。恐らくだが、探知機みたいな何かしらがあるのだと思う。


 気絶した死神少女を放置し、森の上空へとあがり周辺を見渡してみる。距離を稼げばいいのかも分からない。何もかも未確定だ。


 唯一確かな事は、俺が既に死んでいて、今は幽霊に成っている、という事ぐらいか。


 生前の記憶は無い。気が付いたら幽霊に成っていた。


 記憶の始まりは神殿みたいな場所に居て、さっきの死神少女がアホ面晒して驚いていたところからだった。なんでも、死んだにしてはエネルギーに満ち溢れている、らしい。良く分からない。


「……エネルギー。エネルギーか」


 樹を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。有り難い先人の言葉にあやかり、試してみよう。


 どうやらこの森は私有地だったらしく、浅い場所が切り開かれ屋敷が立っていた。屋敷からの道も整備されていて、草原に伸びる街道へ合流されている。


 屋敷の前へと降り立ち、門を通過し、玄関から無断で中へ入る。侍女服を着た使用人が数人、視界に映った。


「ものは試し!」


 近場に居た女性に近付き、手を伸ばす。すると、手は彼女の体を通過して向こう側へと突き出てしまう。


「むぅ……」


 屋敷中を飛び回り、目に写る人物全てに試して回ったが、予想通りには行かなかった。


「憑依出来ねぇー……」


 人の中に入れれば、溢れ出ているらしいエネルギーとやらを隠せると思ったが、簡単じゃないようだ。何かしらの条件が有るのか、溢れているエネルギーが問題なのか、さっぱり分からない。


 宛もなくふよふよと漂っていると、何処からか咳が聞こえてきた。音の発生源の方向へと目を向けると、数人の使用人が慣れた様子で一室へと入っていく。


 ついて行くと、その部屋は薄暗かった。窓のカーテンは締め切られ、仄かな灯りが室内を照らしている。


 寝台には一人の童児が寝ており、背中を擦られ、清潔なタオルで口元を押さえている。使用人の一人がカップにお湯を注ぎ、粉薬を溶かして彼に渡していた。


「病気……、療養か」


 先程の薬は咳止めだったのか、童児の様子は落ち着いている。侍女達は優しく彼を寝かせて、額のタオルを取り換えて静かに辞していった。


「……」


 幽霊に成ったからか、妙なものが見えるようになっていた。童児の胸の辺りに光る珠の様な物があり、侍女達と比較すると物凄く弱々しい。今にも消えてしまいそうだ。


 きっと、あれが死神少女の言っていたエネルギーなのだろう。


 苛立ちを覚えて、童児の光へと手を伸ばす。すると、今度は通過せず掴む事が出来た。自分の中のエネルギーに意識を向けて、彼の元へと手を伝って少しずつ移していく。


「だ、れ?」


 違和感を覚えたのか、童児は目を覚まして、ぼんやりだがしっかりとこちらを捉えている。エネルギーを分けたからか、見えている様だ。


「さてな? 俺にも分かんね。誰だと思うよ?」


「ん……。神、様?」


「残念だけど違う。少年、名前は?」


「ユー、リヒ」


「ユーリヒか。格好いい名前だ」


「えへへ、褒められ、た」


「……なぁ、ユーリヒ。生きたいか?」


「ん……。生きたい、けど、迷惑、掛けちゃう」


「違うぞ、ユーリヒ。死なせたくない、そう願う人が居るから、なんとかしようとする人が居るんだ」


「……良いの、かな?」


「何がだ?」


「一杯、迷惑掛けたのに、願って良いの、かな?」


「手間暇掛けられてんだ、願わない方が失礼だろ」


「……神様」


「違うけど、なんだ?」


「僕、生きたいです。走ったり、遊んだり、友達、作りたいです。神様……、家族に、会いたいです」


「俺は神様じゃないが、そのぐらいなら叶えられるさ。安心しな、ユーリヒ。お前は死なないよ」


















 ユーリヒが目を覚ますと、今まで感じた事の無い感覚に戸惑った。薬はもう切れているのに、咳も出なければ、吐きそうな程の頭痛も綺麗さっぱりと無くなっていて、悪寒さえも無くなっている。


 寝た切りだった体は相変わらず重いが、意識がはっきりとした感覚は本当に久し振りだった。


 寝台から降りて、ふらつく体をなんとか支えながら窓のカーテンを開け放つ。温かな陽光を全身に浴び、眩しさで目を細めた。


 様子を確認しに来た侍女が扉を開き、立っているユーリヒを見て驚きに固まった。そんな彼女に笑顔を向ける。


「おはよう! 治ったよ!」


 絶望視されていたユーリヒの病が完治した。


 その報告はすぐに彼の家族の元へと届けられ、ユーリヒは数日中に本邸に戻る事が決まった。彼の世話をしていた使用人達も本邸で働く事になり、引き続きユーリヒ付きの侍女として従事する事となる。


 日が変わり、迎えの馬車を待たせ、姿見の前でユーリヒは自分の衣服を整えている。そうしながら、あの日見た不思議な夢を思い出し、誰も居ない事を確認すると、小さく感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます、神様」


『神様じゃないけど、どういたしまして』


「っ!?」


 まさかの返事に心臓が跳ね上がり、ユーリヒは素早く振り返る。そこには、夢に出てきた青年が、ふよふよと空中で胡座をかいていた。


『よっ! 声掛けるまで気付かないとか、ユーリヒってもしかしてにぶちん?』


「な、な、な、なんで居るのー!?」


 すっ頓狂な大声を出したせいか、侍女が何事かと部屋の中に飛び込んできた。


「坊っちゃん!? どうされましたか坊っちゃん!」


 いの一番に飛び込んできたのは皺の増え始めた妙齢の女性だった。彼女がどうしたのか訊ねると、ユーリヒは青年こと俺を指差す。


「神様が居る!」


『だからちゃうって』


「神様……? 坊っちゃん、そこには誰も居ませんよ」


「えぇっ!? で、でもそこに!」


 なおも俺を指差すユーリヒに、妙齢の女性は悲しそうな顔になった。


「嗚呼っ! おいたわしい坊っちゃん。やはり病み上がりで、体力が戻っていないのですね。迎えの方には私の方から言っておきますから、もう数日は安静にしましょう、ね?」


「え、ええ!? あ、待って! ねぇちょっと待ってよぉー!」


 ユーリヒが手を伸ばすが妙齢の女性は止まらない。悲しそうなまま部屋を辞して、廊下でおいおいと泣き声をあげている。嗚呼、可哀想な坊っちゃん。ようやく病が治ったというのに云々。


 力無くへたり込むユーリヒの肩にぽんっと手を置いてサムズアップしてみる。


『もう手遅れだけど、俺って基本的に誰にも見えないから。人目を考えずに話し掛けてくると虚空に話し掛ける痛い人になるから気を付けな!』


「うぅー! 遅い! 本当に遅いよ、もぉー!」


 枕を手に俺を叩こうとするも、実体が無いので空を切るだけに終わる。ユーリヒにとって一番の問題は、扉を僅かに開いて中の様子を窺っている侍女達の存在だろう。


 一人、また一人と悲しそうに去っていき、静かに扉が閉められた。彼の為にも、この事実は伝えない方が良いだろう。完全に痛い人だ。


「もう! もうっ! もおーっ!!」


 取り敢えず、荒ぶるユーリヒを宥めて、これからの事を話し合うとしよう。というか、いい加減物理攻撃が効かないと理解してほしい。ゴーストに格闘は効果がないのだ。

 人物紹介その①。


 主人公。生前の記憶が無い為名前無し。

 気が付いたら神殿に居たらしく、冒頭では成仏なんてしてたまるかと逃走。適当に逃げてたらそこは異世界でしたとさ。

 弱っているユーリヒを見付けて自分のエネルギーを分け与える。憑依にはエネルギーの釣り合いが大事なのだけど、無自覚にクリアした。

 現在の予定。

 最終的にエネルギーを全部譲渡して消滅します。ノット・転生。彼に来世なんて無い。


 ユーリヒ。ガイアが作者にユークリウッドと囁いたので軽く捩ってみた。なんかいい感じな響きなので個人的に気に入っている。別作品でも使いたい。使いません。

 生まれつき病弱。健常者が持つエネルギーを大幅に下回っている為。主人公がエネルギーを分けたので解決。でもまだ不安定なので、主人公が放れると病弱キャラに戻っちゃう可哀想な子。

 現在の予定。

 最終的に幸せ一杯。主人公のエネルギーを譲り受ければ病弱問題は解決する。代わりに主人公が完全消滅する。

 実家に戻って友達作り開始。

 兄との問題発生。

 悪ガキグループに意地悪される。

 別の子供グループに転がり込む。

 あれこれ有って悪ガキリーダーツンデレ化。

 色々有って兄のツンデレ化。

 独立を考えて騎士育成機関へ入学。

 高嶺の花に一目惚れする模様。

 あきーた。また今度。

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