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生まれ変わり

作者: ようじ

ここは天国。

ここでは亡くなった人達が暮らしている。

この物語の主人公の男性も、

若くして亡くなってしまい、

今は天国で暮らしていた。

そんな男性のもとに、あるハガキが届いた。


男性 「すいません。こちら、天国庁 天国局

    天国課 生まれ変わり係ですか?」

役人 「はい、そうですよ。」

男性 「生まれ変わりの順番が来たっていう

    ハガキがうちに届いたんですが…?」

役人 「あぁ、どうぞ、こちらにお座り下さい。」


男性は椅子に座り、役人にハガキを渡す。


男性 「はい、これ。

    いや~、死んだ時は驚きましたが、

    こんな風に順番に生まれ変われるんですね。」

役人 「そうなんですよ。生まれ変わる時に、

    前世や天国での記憶を消してしまい

    ますのでね。生まれ変わった時には

    みなさん、何も覚えていないんですよ。」

男性 「そうなんですね。」


役人は男性から渡されたハガキを見る


役人 「え~っと、田中さんですね。

    死亡年月日は平成21年8月27日と…。」


カタカタカタカタ・・・

役人はパソコンに今聞いた日付を入力する。


役人 「亡くなられたのは19歳ですか? 

    ずいぶん若くして亡くなられたんですね!?」

男性 「そうなんですよ。ひこう中の事故でね。」

役人 「搭乗されていた飛行機が墜落したのですか?」

男性 「いえ、暴走族をやってまして、

    バイクの事故で死んでしまいまして…。」

役人 「暴走族? あぁ、ひこう中って、

    空を飛んでたんじゃなくて、

    グレてたっていう非行中ですか?

    ややこしいな…。

    それで、田中さんは、来週に生まれ変わる予定

    になっておりますので、それまでにご準備をお願いしますね。」

男性 「え!? 準備? 生まれ変わるのに、

    何を準備したらいいんですか?」

役人 「え!? 今まで何回も生まれ変わってるのに、

    知らないんですか?」

男性 「だって、生まれ変わる時に、

    天国での記憶を消されてるんでしょ?

    知ってるわけないじゃいですか?」

役人 「それもそうですね。

    では今から説明します。

    まず、へその緒は必ずご自分で

    ご用意いただかないといけませんね。」

男性 「え!? へその緒? あれって、

    勝手に付いてくる出んじゃないんですか?

役人 「そんなわけないでしょう? 

    この書類を持って、二階の“へその緒係”に行って、

    ご自分のへその緒を購入して下さい。」

男性 「購入しないといけないんですか!?」

役人 「はい、そうです。」


男性は、役人から書類を受け取って、

階段を上がり、ワンフロア上にある

「へその緒係」の窓口に行く


男性 「え~っと、ここが“へその緒係”ですか?

    来週、生まれ変わる予定の者ですが、

    へその緒を準備しておけと言われたのですが、

    どうしたらいいですか?」

役人 「はいはい。どれになさいます?」

男性 「え? どれって、自分で選ぶんですか?

    へその緒に種類があるんですか?」

役人 「もちろんですよ。こちらをご覧下さい。」


男性は様々なタイプの「へその緒」が並んだ

ショーケースをのぞき込む


男性 「種類が色々ありますね…。え~っと、

    この“Dタイプ”って何ですか?」

役人 「それは、出ベソタイプですね。」

男性 「え!? Dは出ベソのDなんですか?

役人 「はい。こちらのへその緒をお選びいただくと、

    取れた後に出ベソになります。」

男性 「え~っ! これを選ぶ人っているんですか?」

役人 「昔から根強い人気がありましてね。

    選ぶ方は結構いらっしゃいますよ。」

男性 「う~ん。僕は出ベソはちょっとイヤかな…。」

役人 「ではこのGタイプは、いかがですか?」

男性 「Gタイプ?」

役人 「ええ。これを選んでいただくと、

    ゴマがものすごく出るヘソに生まれますよ。」

男性 「GってゴマのGですか? う~ん…。ゴマが出るのも

    嫌なので、このNタイプにします。」

役人 「え~っ!? Nタイプがいいんですか!?」

男性 「どうしました? Nタイプって

    ノーマルタイプじゃないんですか?」

役人 「Nって“NOヘソタイプ”ですよ。

    これを選ばれると、ヘソ無しで生まれますよ。」

男性 「それはイヤですよ! やめます!」

役人 「その方がいいです。いまだかつて、

    哺乳類でこのタイプを選んだ例はないですし。」

男性 「じゃあ、そんなタイプを置いておく

    必要ないじゃないですか…。

    普通のへその緒でお願いします。」

役人 「分かりました。では、へその緒は

    通常タイプで手配しておきますので、

    次はこの書類を持って、

    三階の“泣き声係”に行っていただけますか。」

男性 「え!? 泣き声係?」

役人 「はい。生まれた時の泣き声の練習を

    しておいていただかないと。」

男性 「泣き声なんか、自然に出るでしょ?」

役人 「出ませんよ! キチンと練習して

    おかないと、生まれた時に泣き声が出ずに、

    産婦人科医に死産だと思われますよ。」

男性 「そんなもんですかね…? 

    分かりました。」


男性は、また階段を上り、

ワンフロア上の三階にある「鳴き声係」に行く


男性 「すいません、こちら泣き声係ですか?

    来週、生まれ変わる者ですが、

    泣き声の練習をしておけと言われまして…。」

役人 「はいはい。こちらの部屋にどうぞ。

    では、早速ですが、泣いてみて下さい。」

男性 「え!? いや、いきなり言われても…。

    え~っと…、オギャー! オギャー!」

役人 「う~ん…、明らかに練習不足ですね。」

男性 「そんなこと言われても、初めてですし。

役人 「赤ちゃんはしっかり“オ”と

    発音できませんから、もうちょっとボカした

    感じで“ホ”に近い発音の方がいいですね。」

男性 「分かりました。じゃあ…、

    ホギャー! ホギャー!」

役人 「う~ん…。ギャーの伸ばし方が少し

    大人っぽいですね…。“アー”って

    伸ばすよりも、“アア”という感じで、

    “ア”を2回重ねる方がいいと思います。

男性 「はい。ホギャア! ホギャア!」

役人 「いいですね。ただ、ホギャアとホギャアの間の

    息継ぎがスムーズ過ぎますね。

    もうちょっと赤ちゃんらしく、

    苦しそうに息継ぎしてみてください。」

男性 「なかなか難しいんですね…。

    ホギャア!  ホギャア!」

役人 「いいですね! それでいきましょう!」

男性 「なんかすごく恥ずかしいんですけど…。」

役人 「本番も今の調子でできれば、助産師さんから

    “お母さん、元気な赤ちゃんですよ”って

    言ってもらえますよ。では次は、この書類を持って、

    4階の“最初の言葉係”に行って、

    初めて話す言葉をお決め下さい。」

男性 「え!? 初めて話す言葉ですか?」

役人 「ええ。最初に話す言葉って重要ですから、

    予め決めておいてもらわないと。」

男性 「でも、言葉なんか、自然に出てくるでしょ?」

役人 「いや、事前にちゃんと決めておかないと、

    言葉なんか出ないですよ。

    結婚式のスピーチを頼まれて、何も考えてなくて、

    当日、喋れるんですか?」

男性 「いや、それは喋れないですけど…。

    なんか、例えがおかしいような気がしますけど…。

    分かりました。行ってきます。」


男性は、階段を上がり、

ワンフロア上にある「最初の言葉係」の窓口に行く


男性 「すいません、最初の言葉係ですか?

    来週、生まれ変わる者なんですが…。」

役人 「あぁ、はいはい。

    書類をお見せください。」

男性 「はい。どうぞ。」


役人は男性からもらった書類に目を通す


役人 「え~っと、田中さんは日本人に

    生まれ変わることになっていますから、

    日本語の言葉をご指定下さい。」

男性 「いや、いきなり“ご指定下さい”と言われても…。

    えっと…他の人はどうしてるんですか?」

役人 「そうですね。一般的には“ママ”が

    多いですかね。あとは“パパ”とか

    “ワンワン”とか“ねんね”とかですかね。」

男性 「まぁ、普通はそんな感じですよね。

    せっかくだし、ちょっと変わったのも

    いいかな…。これまでに何か変わった

    言葉を選ばれた方はいますか?」

役人 「昔、推理小説が好きだった方が

    “犯人はお前だ!”にされていましたね。」

男性 「親も、いきなり赤ちゃんから真犯人に

    仕立て上げられて、ビックリするでしょ?」

役人 「あと、政治家志望だった方は

    “秘書がやりました”にされていましたね。」

男性 「本当に政治家志望なら、その言葉に

    しないと思いますけど…。う~ん…、

    どうしようかな…。じゃあ、普通の言葉だけど、

    ちょっとひねって、“パパ・ママ”にしようかな。

    “ママ”とか“パパ”だと、

    呼ばれなかった方の親がショックだろうし。」

役人 「でも、田中さんが生まれ変わる家庭は

    母子家庭なので、パパはマズいんじゃないですか?」

男性 「え!? 母子家庭なんですか!? 

    先に言って下さいよ。

    じゃあ、普通に“ママ”にします。

役人 分かりました。


役人は書類に「ママ」と書き込み、

その書類を男性に渡す。


役人 「では、この書類を持って、

    最初の生まれ変わり係の窓口に行って下さい。」

男性 「え!? また戻るんですか!?

    天国でも役所は、たらい回しするんだな…。」


男性は階段を下りて、

1階の「生まれ変わり係」に戻る。


男性 「すいません。へその緒係と泣き声係と

    初めての言葉係に行ってきました。

    はい、これ。」


男性は最初に応対してくれた役人に。

書類を渡す。役人は一通り書類に目を通した。


役人 「はい、これで手続き完了です。

    ご苦労様でした。

    あと、生まれ変わる際の数値の方は、

    おまかせでいかせていただきますね。」

男性 「え? 数値!? 数値って何ですか?」

役人 「生まれ変わる時に、どんな能力を

    持って生まれるかの数値ですよ。」

男性 「そんなのがあるんですか!?」

役人 「はい。“容姿”とか“頭脳”とか

    “運動神経”とか、いくつか数値があって、

    この数値によって、人それぞれの特徴が

    決まるんです。まぁ、基本的に全員が

    “おまかせ”にされますけどね。」

男性 「おまかせといいますと?」

役人 「全員が合わせて100の数値を持って

    生まれるんですが、その100を

    こちらでバランスよく振り分けるんですよ。」

男性 「でも、そんな数値が選べるなら、選びたいです! 

    次はすごい男前に生まれたいので!

    100のうち90を容姿に

    振り分けたらどうなるんですか?」

役人 「それは、すごい男前に生まれますよ。」

男性 「じゃあ、そうします!

役人 「いや、その振り分け方は

    おすすめできませんね。」

男性 「え? だって、100ある数値のうちの

    90を容姿に振り分けたら、

    男前でモテモテなんじゃないですか?」

役人 「昔、容姿90・頭脳10・運動神経0で

    生まれ変わった人がいたんですが、

    運動能力が低すぎて、

    歩いたら息切れがするんで、デートができなくて、

    全くモテなかったんです。」

男性 「歩いただけで息切れするって、老人じゃないですか…。

    じゃあ、運動神経抜群だとモテるので、

    容姿20・頭脳0・運動神経80でお願いします。」

役人 「いや~、それもモテませんよ。

    頭が悪すぎて、スポーツのルールが

    覚えられないですしね。」

男性 「でも、陸上の百メートル走とかなら

    ルールもないし、大丈夫でしょう?

    運動神経に80も数値を使ったら、

    世界記録が出せるんじゃないですか?」

役人 「無理です。頭脳0だと馬鹿過ぎて、

    どっち向きに走るかも分からないので。」

男性 「そこまで馬鹿なんですか!? 

    じゃあ、頭を良くしますよ。

    容姿0・頭脳90運動神経10にして、

    東京大学に入学します。」

役人 「無理ですね。容姿が0だと、不細工すぎて

    人間に見えないので、入試の時に、

    問題用紙を配布してくれませんよ。」

男性 「人間に見えないって、どういうことなんですか!?  

    じゃあ、容姿20・頭脳60・運動神経20でいきます。

    これだったら、頭はいいし、見た目も

    運動神経もそこそこでモテるでしょ?」

役人 「いや、これでもモテませんよ。」

男性 「え? どうしてですか?

役人 「これだと“清潔感”が0なんで、

    体臭がかなりキツいんでね。

    これではモテませんよ。」

男性 「清潔感? そんな数値あったんですか?

    先に言って下さいよ!」

役人 「すいません。聞かれなかったので。」

男性 「役所的な対応だな…。

    じゃあ、清潔感はどのくらいあったらいいんですか?」

役人 「まぁ、1あれば充分ですね。」

男性 「それでいいんですね? じゃあ、

    容姿20・頭脳60・運動神経19・清潔感1にします。」

役人 「はい。ただ、“鼻”の数値が0だと、

    常に青バナが出てますが、それでもいいですか?」

男性 「イヤですよ! “鼻”っていう数値もあったんですか?

    どうして先に言っといてくれないんですか?

    もしかして、“目”の数値が0ならずっと

    目ヤニが出てて、“口”の数値が0なら、

    ずっとヨダレが出てるんじゃないですか?」

役人 「よくご存じで!」

男性 「“よくご存じで”じゃないですよ!

    先に言っておいて下さいよ。

    じゃあ容姿19・頭脳59・運動神経18・清潔感1・

    目1・鼻1・口1でいきます。」

役人 「あぁ、それでもモテませんね。

    “眉毛”の数値が0だと、

    眉毛が生えてこないので、見た目がかなり怖いですよ。」

男性 「眉毛? それは“容姿”には入ってないんですか?」

役人 「もちろんですよ。」

男性 「じゃあ、マツ毛は?」

役人 「それはもちろん“容姿”の数値に入っています。

男性 「そっちは入ってるのかよ!

    基準がよく分からないな。

    じゃあ、容姿19・頭脳58・運動神経18・

    清潔感1目1・鼻1・口1・眉毛1でいきます。」

役人 「う~ん、それでもまだモテないですね。

    “小指”の数値が0だと、

    小指の第一関節から先がないので、

    怖い仕事の人だと思われて、モテないですね。」

男性 「小指っていう数値もあるんですか!?」

役人 「はい。生きている時に、そういう方を

    ご覧になられたことはないですか?」

男性 「ありますけど、あれは

    “兄貴に不義理をした”とか、

    そういうんじゃないんですか?」

役人 「いえ。生まれ変わる時に“小指”の数値を

    0に設定して生まれた人達です。」

男性 「本当ですか…? 結局、その数値って、

    全部で何種類の項目があるんですか?」

役人 「全部で100項目がありますね。」

男性 「え!? 全部で100項目もあるんですか?

    それで使える数値が100だったら、結局、

    全ての数値を1にしないと

    ダメなんじゃないですか?」

役人 「ちゃんとバランスを取ろうと思ったら、

    そうなりますね。」

男性 「じゃあ、ほとんどの人間は全ての数値が

    1で生まれることになるじゃないですか?

    どうしてですか?」

役人 「まぁ、人間は生まれた時は、

    全員同じ条件だということなんです。

    神様がそう決められていまして。

    あとは、産まれてからの

    ご本人の努力次第だということです。」

男性 「そうか、生まれた時は全員が平等なんだ。

    持って生まれた能力のせいにせず、

    努力しないとダメなんですね。

    分かりました。じゃあ、僕も全部1にします。」

役人 「はい、ではそのように手配いたします。

    では、本日の手続きはこれで終わりです。

    お疲れさまでした。来週の生まれ変わりをお待ちください。」

男性 「はい。生まれ変わったら…、死ぬ気で努力します。」


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