第九十九話
頭中将と共に牡丹宮邸に行った芙蓉。
一応、家出先も選んだのだ。
左大臣邸に行けば、左大臣と母に怒られるだろう。
三の君の式部卿宮邸に行けば、すぐに東宮の耳に入るに違いない。
でも、だからといって、単身、宇治の別荘にでも行けば、さすがにまずい。
桐壺の女御を守ってくれて、ある程度のワガママを聞いてくれちゃう人=頭中将のお兄さま。
という計算の上である。
ちなみにその計算には、頭中将が芙蓉のことを好きだったということは入ってない。
頭中将からすれば、自分が芙蓉を連れ出したなんてことがバレれば、東宮にどんな誤解を受けるかとドキドキである。
下手をすれば、男女が手と手を取り合って駆け落ちしたように見えなくもない。
特に東宮の眼が嫉妬に狂ってしまったら。
牡丹宮は、芙蓉を見て驚く。
「な、なぜ桐壺の女御さまがここに・・・」
ソワソワキョロキョロ。
落ち着きがない。
いつもの牡丹宮らしくない。
「私、来てはいけなかったかしら?」
いや、来たらいけないことは確かだ。女御なんだから。
母 中将の御方なら容赦なく突っ込んでる。
でも、牡丹宮は今、そんなことにまで頭が回らない様子。
あたふたしっぱなしだ。
その時、初めて見る女性が部屋へと入ってきた。
牡丹宮が顔色を変える。
服装からして、女房といった雰囲気ではない。
誰かしら?
さすがの芙蓉も少し不安になってきた。