第九十五話
芙蓉のおなかが徐々に大きくなりつつあるころ、牡丹宮が参内してきた。
久々の友との再会に、芙蓉は心躍らす。
東宮の寵妃。
そして次代の東宮とも目される一の宮が産まれ、次の子供もおなかにいる。
芙蓉は宮中の中で、次第に大きな存在となってきている。
それと同時に、芙蓉の悩みも増してくる。
そんな中での牡丹宮の参内は、芙蓉にとっては嬉しくて仕方ない。
「このたびは、頭中将さまとの婚儀のご報告に参りましたのよ」
そう言って、微笑む牡丹宮は相変わらず美しい。
「牡丹宮さまは、お幸せですか?」
芙蓉はするっと聞く。
その単刀直入な質問に、牡丹宮は少し困ったような顔をする。
「桐壺女御さまは、お変わりにならないわね。
そうね、それなりに幸せよ」
「それなりなの?」
芙蓉は、う〜んと考え込む。
「だって私たち、恋しているわけではないし・・・。
でも、お互いにお互いを大事にして・・・頑張ろうかなと思っているの。
そう・・・いつか、恋しているのかもってはっと気づくこともあるかもね」
そんな牡丹宮の答えに、芙蓉は納得したような不満なような、よくわからない。
「私たちに姫が生まれたら、女御にあげることになるかもしれないわね。
一の宮さまには、すでにだいぶお妃候補が増えてきちゃっているみたいだけど、私の娘だったら美人になること間違いなし!」
そう言って、牡丹宮はいたずらっぽく微笑む。
頭中将には、他に好きな人がいたと聞いた。
でも、今の頭中将と牡丹宮にはそういったことは関係ないんだろう。
ああ、こういう夫婦の形もあるんだ。
こういう幸せの形もあるんだ。
私と東宮さまみたいなほうが絶対幸せだと思うけど。