第九十四話
芙蓉は、そんな父子の横に座る。
可愛い。
そんなことを思って、うっとりしてしまう。
東宮も一の宮もどっちも可愛い。
そして、ふとおなかに手をあてる。
この御子は、若宮か姫宮かどっちだろう。
宿下がりする際には、一の宮も連れて行かなくてはならない。
また、東宮と離れなくちゃあいけないのか。
そう思うと、切なくなる。
でも、ここで産むわけにもいかないしね。
そんなことをつらつらと考えながら、一の宮の頬をなぜる。
最近になって、歯が生えてきた。
ちょっとずつ大きくなっていくんだなあ。
そんなことを考えて、嬉しくなる。
梅壺の女御の妹とは限らないものの、相変わらず、東宮に別の女御が入内してくる可能性はまだまだ高い。
東宮が、帝に即位することになったら、間違いなく他の女御たちが入内してくるだろう。
跡継ぎ候補は、多いにこしたことはない。
一の宮がいるといっても、一の宮が元気に大人になるとは限らない。
一の宮が元気に大人になったとしても、自分の娘が寵愛されたら、生まれるかもしれない自分の孫にだって可能性はある。
そんなことを狙う貴族たちは、まだまだ多いのだろう。
実際、東宮だって帝の弟なのだから、これから先、東宮に生まれるかもしれない二の宮、三の宮にだって可能性はあるんだ。
恐ろしい人ならば、一の宮を毒殺してしまおうと考える人だっているかもしれない。
「やっぱり、一の宮は左大臣邸で育ててもらったほうがいいのかな・・・」
そう考えてしまう。
左大臣邸のほうが、安全だろう。
でも、こういった家族でいる時間が愛しくてならない。
左大臣からも、一の宮を引き取ろうかという申し出を受けている。
中将の御方がいなくなってしまった今、一の宮までいなくなるというのは寂しいけれど、一の宮の安全のためには仕方ないことなのかもしれない。
宮中には、一の宮を亡き者にしたい。そんな恐ろしい考えをもつひともいるのだから。