第九十三話
中将の御方が宿下がりしてしまい、芙蓉は途方にくれる。
ちょうど遊びに来ているものもなく、一の宮だけ。
東宮に来てもらいたいが、次代の為政者に、そうそう遊んでもらうわけにもいかない。
そんな時、ヒマそうな芙蓉を狙ったかのように爆弾がやってきた。
梅壺の女御である。
最近では帝の訪れも途絶えがちだが、彼女の性格は変わらない。
「今日は、私の妹たちをお連れしましたの。
妹たちが参内いたしましたから、是非、桐壺さまにご挨拶をさせなくてはと思いまして」
そう言って微笑む裏に、毒が隠されていそうである。
芙蓉の中では、警戒警報発令中。
「まあ、それはご丁寧に、ありがとうございます」
そう言って、相手の出方をはかる。
さすがに女御相手に来なくていいのに〜とは言いづらい。
梅壺の女御は十四・五くらいと三歳くらいの姫君たちを連れている。
「今日は東宮さまと一の宮さまは?」
「おられませんの」
やはりそこか!
そんな思いは表さず、ほほほっと笑ってみせる。
東宮の女御たる私の目の前で、新しい女御を薦めようとするとはいい根性をしている。
「まあ!」
梅壺の女御がわざとらしく驚く。
「梨壺にいらっしゃらなかったので、てっきりこちらにいらっしゃるものかと・・・」
で、一の宮か。
ヒマはヒマだったけど、別にこの人たちに会うくらいならヒマなほうがマシ。
でも、一応、相手も大臣家出身の女御さまなのだし、追い出すわけにもいかない。
その後も、なんだかんだと居座り続ける梅壺の女御。
奥の部屋でお昼寝中の一の宮が起きてくるのではないかと、芙蓉は気が気でない。
夕闇がせまってきたころようやく、梅壺の女御は帰って行った。
帝が退位なさることなんて別に望んでないけど・・・退位なさったら、女御がいなくなるのはちょっと、いやかなり待ち遠しいかも・・・
そんな口には決して出せないことを思ってしまった芙蓉だった。
奥の部屋に一の宮の様子を見に行くと、一の宮の乳母が少し離れたところに座っている。
しぃー
口に指をあてて乳母が見た方向には、仲良く寝ている父子の姿があった。
いつのまにか、梅壺の女御の目を盗んで忍び込んできていたようだ。
そんな姿を見て、思わず芙蓉の顔がほころんだ。