第八十五話
翌朝。
右近少将に聞いてはダメとは言われたけど、三の君に聞いてはダメとは言われていない。
三の君が隣りにいるのに聞かないなんてこと、出来ない。
さりげなく三の君を探ってしまう。
「牡丹宮さまのご降嫁のお話、びっくりしちゃった」
とりあえず、話を振ってみる。
「そうね、まあ、我が家にとって悪いお話ではないわ」
「お兄さまには、恋人とかいらっしゃらなかったのかしら?」
芙蓉は、ちょっと探ってみる。
・・・けっこうストレートな探り方である。
「私は、知らないわ」
そう言いながらも、三の君は兄がなんとなく気の毒になってきた。
芙蓉ったら、やっぱり全然気づいていなかったのねえ。
ホントに色恋沙汰には鈍感なんだから・・・
そう思って苦笑する。
でも、今さら兄の想いを伝えることはしない。
しても、仕方ないことだから。
伝えたところで、兄にも芙蓉にもいいことはない。
二人とも、大事な人だから、幸せになってもらいたい。
「いたとしても、もう終わったことなんだから、兄様には聞かないであげてね?
昔の恋よりも、これからの恋を大事にしたほうがいい時もあるのよ。
それに古傷をえぐるようなことになるかもしれないし」
最後の一言は、少し小さな声で付け加えた。
芙蓉には、聞こえなかったようだ。
それにしても、これだけ気づかない芙蓉も芙蓉だけど、これだけ気づかせなかった兄も兄だ。
情けない。