第八十三話
「右近少将には、想う姫などいるのか?」
突然の言葉に三の君は一人で慌てる。
「おりません・・・」
右近少将は静かに答える。
「春の除目で、右近少将は頭中将になるとか。
帝とも相談したのだが、先々帝の姫宮、つまりは牡丹宮を右近少将に降嫁させてはどうだろうかという話があるのだ」
右近少将は息をのむ。
「父に相談してみませんと」
「左大臣は、既に知っている。
右近少将が良いと言えばと言っていた」
右近少将の逃げを東宮は封じる。
「ちなみに牡丹宮も、御意のままに・・・だそうだ」
公達なら誰もが喜びそうな内親王降嫁。
だが、右近少将の顔に笑みはない。
「では、私も仰せのままに・・・」
表情を変えず静かに言う。
傍らにいる三の君には、兄の気持ちが痛いほど伝わる。
自分が式部卿宮に恋したせいだ。
そう思う。
三の君が式部卿宮のもとに家出したりしなければ、素直に入内していれば、兄は芙蓉を北の方に出来ていたのかもしれない。
そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
・・・でも、後悔はしない。
芙蓉と東宮はあんなにも幸せそうだ。
私のワガママがなければ、一の宮は生まれなかった。
そして何よりも。
愛する式部卿宮と可愛い小姫。
後悔したら、いまを否定することになってしまう。
だから。
三の君に出来ることは、兄と牡丹宮が幸せになるように祈ること。
それだけ。