第八十一話
三の君と小姫が来ている生活は、なんとも言えず楽しい。
東宮や式部卿宮も桐壺に遊びに来る。
「次は、姫宮でもいいなあ」
小姫と遊びながら、そんなことをつぶやいている東宮を見ているのも楽しい。
一の宮と半年ほど年の離れている小姫を見ていると、ああもうちょっとしたら一の宮にも歯が生えるのねえなどと思ってしまう。
二つの家族が和やかに語らっている様子は、端から見ていてもなんだか微笑ましい。周りに控えている女房たちも、笑いさざめいている。
そこへ三の君の兄 右近少将がやってきた。
幼いころは、一緒によく遊んだものだが、やがて元服や裳着を境に几帳を隔てるようになり、芙蓉の入内が決まって以来、ほとんど顔を見せることがなかった。
久々に会う右近少将は、ほぼ一年ぶりだろうか。
最近は、儀式や宴の折なども、遠く離れていて、このように近くで会うことはなかった。
前に会った時より多少、やつれたような印象を受ける。
「お久しぶりです。
お兄さま」
芙蓉は、明るく声をかける。
その声に、右近少将は嬉しそうな、少し悲しそうな顔をする。
「ご無沙汰いたしております、桐壺の女御さま」
そうよそよそしく返す右近少将。
芙蓉は少し悲しくなる。
芙蓉の横で、三の君が首をかしげている。
「どうかしたの?」
芙蓉が尋ねる。
三の君は、首をふる。
「梨壺に参りましたら、東宮がこちらにいらっしゃると伺いましたので」
そう言って、右近少将は穏やかに微笑んだ。
春の徐目では、位がまた上がるであろう左大臣の一人息子だが、その物腰は柔らかい。
東宮も式部卿宮も、仲のいい右近少将の出現に喜ぶ。
芙蓉も、久しぶりに会えた従兄ににこにこしている。三の君は一人釈然としなかった。