第八話
芙蓉だって女の子である。
入内を控えて、衣装を数多く新調したり、美しい小物類を揃えたり、数多くの絵巻物を入手したり、新しくお香をあわせたり。
芙蓉にとってはわくわくすることばかりである。
もっとも、すべては御簾と几帳の奥に座っているという前提でしか、楽しむことは許されていない。
たとえ相手が女房であろうと人前に出る時には、扇で顔を隠すように。との中将の厳しい言いつけである。
女の子らしく、美しいものの数々に心踊らせながらも、芙蓉にとってもっとも心が休まるのは一人で寝所で、お気に入りの琴をかき鳴らす時であった。
ぽろろんと少しかき鳴らすだけのつもりが、次第に琴に没頭し、まわりが見えなくなるほどであった。
ガタッ
突然、人の気配がして、ハッとなる。
「誰?!」
自然と語尾が、鋭くなる。
柱の陰から狩衣をまとった若い公達が姿をあらわした。
「君が三の君?」
「…だとしたら?」
「東宮妃になる姫に、一度会ってみたかったんだ」
若者は落ち着きはらったまま。
「兄上に前に見に行かせたら、盗られちゃったからね」
「兄上?!盗られた??」
芙蓉にしたら、意味がわからない。
「式部卿宮だよ。
三の姫の顔を見に行かせたら、一目惚れしちゃったらしくてね。
盗られたのさ。だから、今度は自分で見に来た」
「と…東宮さまっ?!」
「あ、正解。
さすがあの中将の御方の娘なだけあって、頭の回転は悪くないみたいだね」
式部卿宮に三の君をとられたと言うことは・・・
「まさか東宮さまはご存知ですの?」
思わず、そんな疑問が唇からもれる。
「知ってるって、君が本当は三の君ではないということ?」
芙蓉は目を見開く。
「まあ、左大臣は隠しているけど、式部卿宮から話は聞いてるからね。
でも、君が三の君になって良かったかな。
面白そうだ」