第七十九話
左大臣は、最近毎日のように桐壺にやってくる。
もちろん、日々の勤めを果たして、藤壺の中宮にご機嫌伺いをしたあとに、桐壺の女御のご機嫌伺いをしているわけだから、至極当たり前のことではある。
桐壺で、左大臣が話しかけるのはもっぱら、芙蓉じゃなくて中将の御方であるとはいえ。
二の君への姫君教育を中将の御方が熱心にしていたのに、自分が相手してもらえないからと、二の君を左大臣邸に連れ帰ってしまった。
これにはさすがの中将の御方も、苦笑いするしかない。
娘の教育より、自分の愛をとった・・・ということなのか?!
左大臣は、それでいいかもしれないけれど、不満の残るのは芙蓉だ。
一の宮は可愛いし、東宮さまも中将の御方もいるけれど、たわいない会話を楽しめる女の子は貴重なのだ。
頼めば、いくらでも話し相手になってくれそうな人たちはいるけども。
梅壺の女御とか。
そんな肉食動物の巣みたいなとこに、自分から飛び込む自殺願望は持っていない。
芙蓉は、ふぅ〜と伸びをした。
春うららかな午後。
話し相手の二の君のいなくなった桐壺は、なんとなく静まり返っているような気がする。
もし三の君が入内していたなら、私がずーっと話し相手になってあげてたのかな。
ふとそんなことを考える。
三の君が東宮に入内する。
そんな事態にならなくてよかった。
今の自分の幸せを思うと、ちょっとそんなことを考えてしまう。
三の君が入内していたら、また違った人生になっていたのかもしれないけれど。
でも、今の芙蓉には東宮の隣りに自分以外の女性が座っているところなんか想像したくない。
それが、例え大好きな三の君であっても。
そんなふうに、三の君のことを考えていたからだろうか。
三の君から、小姫を連れて参内するという文がやってきた。