第七十八話
それを見届けてから、中将の御方は左大臣のほうを軽く睨んだ。
「また随分な大物を仲裁役に立てられましたこと」
左大臣は、ちっちゃくなってうつむく。
「芙蓉いや女御さまに断られそうになってたら、東宮さまが助けようと言って下さって」
中将の御方は眉間にしわをよせる。
「それでほいほい着いてきたと・・・?」
中将の御方はため息をつく。
「まず、こんな内輪の話で、東宮の手をわずらわせるものではありません。
そして、こんなことくらいで人に借りを作るものではありません。
しっかりなさって下さい!」
左大臣は、ますます小さくなる・・・
「これ以上困った事態に陥らないように、出入り禁止はなしにしますけど、変な企みはなしですよ?」
蛇に睨まれたカエルって、こういう感じ?
柱の陰から覗いてた芙蓉は思う。
左大臣は、そそくさと帰って行く。
「まあまあ、左大臣は中将の御方には相当頭が上がらないみたいだねぇ。
まるで長年連れ添った夫婦のようだ」
東宮が、素知らぬふりで言う。
みんな、こわいんですけど。
芙蓉は、そんなことを思いながら、しぶしぶ部屋の中に戻ってきた。
「左大臣さまには、もう少ししっかりしていただかないと。
一の宮さまのお立場にも関わりますから」
中将の御方が苦笑いする。
「左大臣には、手綱をしめてくれる北の方が必要なのだろう」
東宮が、ニヤリとして言う。
芙蓉は、ヒヤヒヤしている。
東宮さまったら、知ってておっしゃるなんて、困ってしまう。
そんなことを思いながらも、成り行きを見守るしかない。
その言葉に、少し考えこんだ中将の御方の口から意外な言葉が飛び出した。
「確かにそうかもしれませんわね。
あれでは中宮さまや女御さま、一の宮さまの後見として頼りないですから」
左大臣の中将の御方へのヘタレっぷりが、意外にいい結果を引き起こす!
のかもしれない・・・