第七十四話
さて、宰相中将が立ち去ったあとの二の君の部屋。
「・・・で?どうして、こうなったのですか?」
中将の御方は、その場にぴんと背筋を伸ばして座った。
「・・・わかりません・・・」
中将の御方がため息をつく。
「まあいいでしょう。
もう夜も遅いから、明日の朝、左大臣さまにも来て頂いたうえで、お話を伺います。
おやすみなさいませ」
それだけ言うと、さっさと部屋を出て行こうとする。
「あ、あの・・・叱らないの?」
二の君が、恐る恐る聞く。
「叱られるようなことをしたのですか?」
中将の御方が答える。
「そういうわけではないけれど・・・」
はっきりしない二の君に、中将の御方は冷ややかに答える。
「これ以上、騒ぎを大きくすることはございませんから」
そう言って、すっと部屋を出て行く中将の御方は、はっきり言って怖すぎる。
朝になるのが怖い・・・
二の君は、そう思った。
翌朝。
いつのまに使いを出したのか、左大臣が朝早くから桐壺にやってきた。
いつになくそわそわと、落ち着きが無い。
梨壺から戻ってきた芙蓉も、一の宮のことは乳母にまかせて、興味津々といった顔で見守っている。
中将の御方は、桐壺の女御の横でぶすっとした顔で座っている。
二の君も困ったような顔で座ったまま、他の人の顔を見ようとしない。
芙蓉は、この殿舎の主だからここにいるだけで、特に自分が叱られるわけでもないから呑気なものだ。
左大臣と二の君。
二人にとっての恐怖の時間が始まろうとしていた。