第七十一話
周囲の雑音は無視して頑張ろう!
と、一人で決心した芙蓉であったが、東宮の唯一の男子を産んだ母女御を周囲はほっといてくれない。
毎日のように、桐壺さま、桐壺さまと、今まで大して仲が良くなかった人たちが、芙蓉のもとを訪れてくる。
芙蓉はうんざりして、時々こっそり仮病を使ってしまう。
そんなとき、二の君が桐壺の女御さまのご機嫌伺いに。ということで参内してきた。
妙なおべっかを使うわけでもないこの義姉の参内に、芙蓉はほっとする。
「珍しいこともございますのよ?
実は、お父さまが、たまには桐壺の女御さまのところにご機嫌伺いに行って羽を伸ばしておいでとおっしゃいましたの。
どうせなら、少しの間、泊まってきたらいいんじゃないかと」
にこやかに微笑む二の君だが、芙蓉は嫌な予感を覚える。
そもそも身分からいけば、藤壺の中宮のご機嫌伺いとして、藤壺に泊まるほうが筋なのでは?
だいたい、左大臣から言い出したというのが気になる。
何かたくらんでいらっしゃるのでは・・・
そんな風にかんぐりたくもなる。
ちらっと中将の御方のほうを見ると、中将の御方も同じように考えているのか、難しい顔をしている。
しばらくたわいもないおしゃべりをしていた芙蓉たちであったが、二の君が自分が泊まることになっている部屋に下がったのを機に、こっそりと額をつきあわせて相談する。
「なんか、怪しいわよね・・・」
「左大臣さまが、なんのたくらみも無く、わざわざ二の君さまを参内させるはずがございません」
きっぱりと言い切る中将の御方に、芙蓉は苦笑いを浮かべる。
そこまでたくらんでばかりと思われている左大臣も、ある意味気の毒である。
「あやしい・・・。何を考えていらっしゃるのかしら?」
二人は、頭をひねるが思い浮かばない。
「とりあえず、二の君さまのお部屋には、妙な男が忍び込まないように、しっかりとガードしておきます。
確か、まだ二の君さまは結婚相手が決まっていないとかで、左大臣さまがやきもきなさっていましたから」
二人は、顔を見合わせてため息をつく。
二の君は、最近、少しはつらつとしてきたようで、以前に観月の宴で会った時よりも、ふっくらとして幸せそうだった。
「まさか、すでに意中の方がいらっしゃる・・・とかいうことはありませんよね?」
そう言う中将の御方も、いまいち自信はない。
思い浮かばないので、まあ、せっかく二の君が来たのだからと、連れ立って藤壺の中宮のところに遊びに行ったりと、楽しい時を過ごす計画を立て始める。
でも、きっと左大臣が何か企んでるに違いない。
そんな確信に近い予感が芙蓉と中将の御方の中には、存在した。