第七十話
梅壺の女御たちによる一の宮の結婚話に驚いた芙蓉は、ある夜、寝物語に東宮にその話をしてみた。
東宮も、苦笑しながら聞いている。
「私、一の宮の結婚のことなんて、まだまだ先のことだと考えていたわ」
そういう芙蓉に、さらっと東宮が答える。
「まあ、考えている人は多いんじゃないのかなあ。
あそこまではっきりと口に出す人は珍しいだろうけど。
もしこのまま、一の宮が東宮になるなんてことがあったらっていう皮算用してる人は多いからね」
「そういうものなの?!」
芙蓉は、がばっと起き上がる。
「まあ、もしも東宮になるのなら、帝の女一の宮か女二の宮の入内は決定的だろうし、式部卿宮の小姫だって入内してくるかもね。
今のところ、左大臣の孫娘はその三人だし」
指を折りながら事も無げに答える東宮に、芙蓉は驚くやらあきれるやら。
「私ったら、一の宮が元気に大きくなってくれることしか考えていなかったわ」
気の早い周囲に、芙蓉はびっくりする。
「はあ〜」
思わず眉間にしわをよせて、考え込む。
そんな芙蓉を見て、東宮は芙蓉の眉間をピンと弾く。
「女御は、そのまま皮算用をしないまんまでいいよ。
女御のための計算だったら、左大臣がやってくれてるさ」
東宮は、にやりとしなが答える。
そう言われて、芙蓉は思わず笑い出した。
色々な権力や考えの渦の中にいるのかもしれないけれど、今この時、二人の世界はとても幸福だった。